千葉県雄蛇ケ池の異質な環境下に、魚卵と前期仔魚を同時に発見した。
これを観察し、測定し、検鏡したところ、カムルチー(ライギョ)と同定できたので報告する。
【結果】
●雄蛇ケ池のワンドの奥は、上空に広葉樹の樹冠が広がり、水面に直射日光のあたらぬエリアがある。
土の上に、泥が10〜20cm堆積した底質で、
水深30〜40cmの、岸辺からは水面で隔たった場所に、島状にキショウブが群生しており、キショウブの
沖側半分の内側が水面の高さでナギ倒されていた(fig.01)。
中央部の1m×1.5mほどの水面を囲むように、キショウブの外周部は円形に無傷で残り、あたかも「塀」のごとき
構造であった。
●「巣」の中の水面に、大量の胚と前期仔魚が混在しており、親魚は不在であった。
●「巣」から、胚と前期仔魚をビーカに採取し観察すると、胚は黄色半透明で浮上卵であった(fig.02)。
●前期仔魚は、水面で横倒しになり、あるいは卵黄を水面に向け逆さになり、たまに背を上に腹を下側に向け
ビーカ内の表層を泳いだ(fig.02)。
●胚の直径は約2mmで、胚体+卵黄+油球が認められた(fig.03)。
●胚の表面には、水生菌と推定される糸状菌が付着し、糸状菌の先端は藍藻・ミクロキスティス(Microcystis Wesenbergii
ベーゼンベルギー)に接近していた(fig.04)。
●前期仔魚の全長は、6mmと測定された(fig.05)。
●胚の発生段階は初期のものもあった。
【考察】
●胚の発生段階と、前期仔魚の混在から、何度か繰返し産卵されたようだ。
●産卵床は、水草の茎や葉を水面に集めて、ドーナツ状の(移動できる)浮巣をつくり、危険が強い場合に、
巣と卵・仔魚を移動させる、という宮地らの記録(※02)とは相違し、
円形に「塀」を巡らせたような固定式であった。
雄蛇ケ池は灌漑用溜池で、灌漑期の観察当日も農業用水路へ放水されていた。
したがって、水位低下(陸地化)による全滅のリスクを背負って、固定式の巣に産卵したことになり、
浮巣をつくらない原因は、巣材料の調達困難にあると推定される。
換言すれば、2006年春に放流されたソウギョによる水生植物の食害・激減の影響が、カムルチーの浮巣さえ
つくれぬまでに極端に進行している証左であろう。
●親魚不在の理由は、不明である。
●観察した前期仔魚の、全長は6mmであった(※03)。
☆「受精後28時間(水温31℃)から120時間(18℃)、ふつう45時間程度でふ化し、全長3.8〜4.3mm」(※02)。
☆「全長6.5mm(ふ化後37時間)でえらあなが形成される」(※02)。
上記条件に従い、観察した前期仔魚は、ふ化後24〜30時間と計算された。
【参考文献】
※01 青柳兵司(1979):
カムルチー属.日本列島産淡水魚類総説(復刻版).淡水魚保護協会.大阪,pp.190−192.
※02 宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦(1981):
カムルチー.原色日本淡水魚類図鑑(原色図鑑32)全改訂新版6刷.保育社.大阪,pp.293−296.
※03 よしさん(2008):「雄蛇ケ池のカムルチー前期仔魚(ふ出翌日)」.http://wakasagi.jpn.org/