【雄蛇ケ池のアオコ現象と原因藍藻類の変遷(2006〜2008年)】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池です。
【結果(2008年)】
2008年07月13日、千葉県雄蛇ケ池において、目視できる軽度の水の華(アオコ現象 fig.01)を引き起こしている、植物プランクトンを
調査したところ、藍藻のミクロキスティス エルギノーザ(fig.02)、ミクロキスティス ベーゼンベルギー(fig.03)、
ミクロキスティス イクチオブラーベ(fig.04)の3種と、
アナベナ スピロイデス クラッサ(fig.05)の合計4種からなる複合現象であることが明らかになりました。
ミクロキスティス エルギノーザ(fig.02)の直径は3.2〜6.6μm、ミクロシスチンをつくることで知られ、
雄蛇ケ池では2006年〜2008年に連続観察しています。
ミクロキスティス ベーゼンベルギー(fig.03)の直径は3.7〜7.6μm、袋型の寒天状基質の外縁部が明瞭で、
雄蛇ケ池では2008年に初観察の優占種です。
ミクロキスティス イクチオブラーベ(fig.04)の直径は2.5〜4.9μm、海綿状で顕微鏡下でレンガ色に見えます。
ミクロシスチンをつくる系統とつくらない系統があり、雄蛇ケ池では2008年に初観察の種です。
アナベナ スピロイデス クラッサ(fig.05)は、ラセン状で、雄蛇ケ池では2008年に初観察の種です。
程度は、レベル4(水表面を膜状にうっすらとアオコが覆う)の段階で、このエリアの面積は20m×10m程と、比較的に軽度です。
この4種の複合現象を、顕微鏡下で見た様子を下に示します(fig.06)。
fig.06 アオコ現象の水中(雄蛇ケ池小谷津)
水中を顕微鏡で観察すると、「うわっ、何、これ」と、絶句状態です
【考察】
藍藻類の異常繁殖による問題は、水の華(アオコ現象 fig.01)を引き起こし、見た目の景観が悪いことや、
層が形成されるように程度が進めば、圧密された表層の腐敗臭が耐えがたいことに留まりません。
藍藻類により毒素が生産されることが、問題の本質で、例えば「ミクロシスチンは肝臓毒として確認されていますが、
作用として不明の部分も多く、他の藍藻類の毒性の発現もほとんど未解明状態」(※01)というリスクがあります。
さらには、「ミクロシスチン等の毒素が肝臓がんを促進する可能性がある」(※01)とする、藍藻類の発がん
プロモーション活性に注意しなくてはなりません。
ミクロシスチンのマウスに対する毒性は、腹腔内投与により出血性ショックと肝機能不全で死亡する事例で、
肝臓組織が破壊され、破壊された肝細胞が血流に乗り肺の毛細血管を閉塞させ、呼吸困難・窒息にいたります。
「ニホンウズラ・コイ・キンギョを用いた試験で毒性が示され、貝類と一部の動物プランクトンに生体濃縮が確認されている」(※01)
ことから、食物連鎖による慢性毒性をも認識すべき時代のようです。
【原因藍藻類の変遷(2006〜2008年)】
2006〜2008年の3年間に、雄蛇ケ池で観察された藍藻類を示します(table.01)。
year
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2006年08月31日
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2007年08月12日
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2008年07月13日
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出現種
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●Microcystis Aeruginosa
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●Microcystis Aeruginosa
●Anabaena Macrospora
●Oscillatoria Kawamurae
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●Microcystis Aeruginosa
●Microcystis Wesenbergii
●Microcystis Ichthyoblabe
●Anabaena Spiroides var.crassa
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table.01 原因藍藻類の変遷(2006〜2008年)
2006年の調査では、水の華(アオコ現象)の主原因は、ミクロキスティス エルギノーザでした(※02)。
2007年には、原因となり得る藍藻がミクロキスティス エルギノーザの他に、
直線状のアナベナ マクロスポーラや、オシラトリアが加わりました(※03)。
2008年は、ミクロキスティス エルギノーザの出現が継続しているものの、ミクロキスティス属は
ベーゼンベルギーとイクチオブラーベの2種を新規に観察し、計3種と拡大しています。
優占種はベーゼンベルギーです。
アナベナは、2007年に観察された直線状のアナベナ マクロスポーラから、2008年はラセン状の
アナベナ スピロイデス クラッサに種が置換わりました。
2006年早春に放流されたソウギョによる、オオカナダモ・ヒシモの壊滅状態と、
ヨシ・ハスの激減にともなう水温上昇と底泥中の栄養塩再溶解が、藍藻類の変遷に及ぼす影響は明確ではありません。
【参考文献】
(※01)渡辺真利代・原田健一・藤木博太(1994):「アオコ−その出現と毒素−」257pp,東京大学出版会,\4738
(※02)よしさん(2006):「アオコとは(雄蛇ケ池における2006年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※03)よしさん(2007):「アオコとは(雄蛇ケ池における2007年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
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