【状況】
ワカサギ及びチカふ化仔魚の初期餌料に適した小型プランクトンの状況を明らかにするため、
茨城県涸沼の、水深1m付近の湖面に設置された、チカ(Hypomesus pretiosus)人工増殖用ふ化盆の
周辺でプランクトンを採取したところ、イサザアミ(fig.01)がプランクトンネットに入った。
【イサザアミ】
イサザアミは、古くは軟甲亜綱端脚目に、現在は真軟甲亜綱フクロエビ上目アミ目
アミ科に分類され、アキアミ・サクラエビ等と比較的に近い仲間(※04)である。
アミ類は海の動物だが、世界では汽水域・純淡水域にも分化・進出している。
湖底の採泥器の考案者として有名なエクマン(Sven Ekman)は、1913〜1920年に、北ヨーロッパ陸水中の海産系動物の遺留種(Mysis oculata 等)を明らかにした(※03)。
宮地伝三郎は、1934年に、南樺太(サハリン)の淡水湖バッコ沼で海産系の端脚甲殻類カマカ(Kamaka kuthae)やイサザアミ(Neomysis intermedia)の
海産遺留種を明らかにした(※03)。
ティーネマン(August Thienemann)は、1955年に刊行した「Die Bin nengewasser in Natur und Kultur」(邦訳:川と湖-その自然と文化- ※05)で、
北極海に住むイサザアミの一種ミシス・オクラタ(Mysis oculata)に由来する遺留種、ミシス・レリクタ(Mysis relicta)は、
氷期の海の遺存種と報告している。
イサザアミは、霞ケ浦においてイサザアミ漁で漁獲し、佃煮・塩辛に利用され、とれたてを二杯酢にしたものは、
さらにうまい(※02)といわれ、涸沼でも漁獲されている。
人に有用なだけでなく魚類の餌料として重要であり(※02)、涸沼ではイサザアミ資源量の多い年のスズキの餌料は、
5ケ月間の涸沼滞在期間中のほとんどの期間をイサザアミが占めており、資源量の少ない年にはワカサギ等魚類が
スズキの餌料となっているとの研究がある(※07・※08)。
【考察】
一般にワカサギ仔魚は05月に体長18〜20mm、09月で70mm程度と推定され(※01)、
牛久沼においては06月に全長40〜53mm、08月に52mm・56〜60mm・70〜71mmであった(※09)。
茨城県水産試験場に従えば、涸沼内にイサザアミ資源量の少ない年は、涸沼のワカサギ(及びチカ)が、
(05月に30mm・06月〜07月に100mm・09月〜10月に200mmを越える)スズキ稚魚・未成魚に
5ケ月間にわたり捕食され、減耗している可能性が見えてきた。
言い替えれば、涸沼における、秋季以降を中心としたワカサギ資源量の予測検討には、各年05月以降のスズキ稚魚資源量と07月頃の
イサザアミ資源量の大小の把握が要点となる。
ワカサギ生残量にまつわる涸沼の食物連鎖は、概ね、
「花粉→イサザアミ、デトリタス→プランクトン→イサザアミ→ワカサギ(及びチカ)→スズキ」となろう。
しかし、
「デトリタス→イサザアミ、デトリタス→ワカサギ、ワカサギふ化仔魚→イサザアミ成体、ワカサギふ化仔魚→プランクトン(大型)」の可能性
さえ考えられ、実態は複雑怪奇と推定される。
もちろん、洪水による魚の流失・塩分濃度(海水舌)変化等も資源量バランスに重大な影響を与えることは論を待たない。