亀山湖・牛久沼は首都圏近郊のワカサギ釣り場をめざします

ワカサギふ化放流ノート
ワカサギ仔魚の、ふ化後5日間の成長(その3)
It is growth of five days after hatching of japanese-smelt, Hypomesus nipponensis Sac fry(The 3).
初期餌料の摂餌活動に使用される仔魚の関係器官の、ふ化後5日間の形態変化は、以下のようであった。
【table.03  仔魚頭部の形態変化 A form change of the Sac fry head.】
ふ化当日
2009年03月21日
fig.03 仔魚a
fig.03 仔魚a

【ふ化当日】
頭部で目立つのは眼(径200μm)と直後に続く耳胞(内部構造)、胸ヒレであり、油滴(長径250μm・短径200μm)を含む卵黄(長径550μm・短径370μm)を抱える。
上顎と下顎は判然とせず、口はまだ開いていないが、喉を有し、喉から卵黄前部へ続く魚体下面の体腔(最大360μm・最小300μm)が比較的にある。
ウナギ形で条のない仔魚膜(ヒレ)は後頭部から背部・尾部を廻り連続し、肛門(開いている)で終わり、別の仔魚膜は卵黄後部から肛門へ連続する。
ビーカー内で、水面直下に定置し、遊泳もできる。

第2日
2009年03月22日
fig.04 仔魚b
fig.04 仔魚b

【第2日】
下顎ができ、口が開いている。
眼の直後に耳胞(内部構造・長径200μm・短径100μm)と、耳胞に内蔵された耳石が見える。
油滴(径180μm)を含む卵黄(長径450μm・短径260μm)は、それぞれ縮小してきた。

第3日
2009年03月23日
fig.05 仔魚a
fig.05 仔魚a

【第3日】
卵黄(径200μm)は、かなり吸収され、油滴(長径130μm・短径90μm)も一段と縮小してきた。

第4日
2009年03月24日
fig.06 仔魚a
fig.06 仔魚a

【第4日】
上顎(吻)が明確になり、下顎は上顎より長く、喉から卵黄へ続く魚体下面の体腔が縮小し、引き締まってきた。
卵黄は、ほぼ吸収され、油滴(径100μm)もさらに小さくなる。

第5日
2009年03月25日
fig.07 仔魚a
fig.07 仔魚a
第5日
2009年03月25日
fig.08 仔魚b
fig.08 仔魚b

【第5日】
ホルマリン固定時の開口・高さは200μm(仔魚a)、口の横巾は250μm(仔魚a)及び210μm(仔魚b)、 下顎の縁の厚みは40〜50μm(仔魚a・仔魚b)と上顎より強大。
卵黄は吸収され消失しているが、油滴の名残(径20μm)を有する個体もある(仔魚a)。
無給餌環境のため餓死する個体1尾あり。

【関連報告】
よしさん(2009):「ワカサギ仔魚の、ふ化後5日間の成長(その1)」http://wakasagi.jpn.org/
よしさん(2009):「ワカサギ仔魚の、ふ化後5日間の成長(その2)」http://wakasagi.jpn.org/

【考察】
●口は(不完全のようだが)第2日目に開いた。
●卵黄が吸収され消失するのは、(ふ化当日を第1日とカウントして)第5日であり、 代田(※03)・浅見(※04)等の「卵黄吸収までに要する日数、4日」(ふ化翌日を第1日とカウントして)と合致し、 ふ化後6日目で卵黄を吸収しつくしていない個体が認められたとする、山岸(※02)の飼育実験とは相違した。
●無給餌環境下で卵黄を吸収しつくし、第5日に餓死する個体の出現は、湖沼等天然環境下においても、 第5日以前に初期餌料と遭遇し摂餌しなければ、仔魚の生残率が大きく低下することを示すものである。
●代田(※03)はワカサギを含む主要40魚種を対象に、ふ化時全長Xmm・卵黄が吸収され摂餌が始まる全長Ymmには、
Y=1.357X の関係があると述べているが、今回のワカサギ飼育観察結果を代入 (Y=1.357×5.11=6.934)しても、実際の全長5.605mmと合致しなかった。
式を逆算すると、Y=1.0968X の関係が見い出せ、ワカサギにおいては1.09〜1.35の範囲があるようだ。
●仔魚の口径(概略:側面から見た上下顎を開いた距離)を代田(※03)は独自の方法で算出し、 ワカサギでは摂餌開始時の口径を226μmと記載され、 今回のワカサギ飼育観察事例(fig.07 仔魚a)の200μmとほぼ整合している。
●仔魚の生残においてさらに重要な、口径と摂餌可能な天然餌料の大きさとの物理的関係について、代田(※03)は 「開口率50〜75%を天然での一般的な状態とみなし」た上で、 「淡水産のワカサギは摂餌時に115〜170μの大きさの餌料を摂餌することが可能である。 従ってミジンコの Daphnia や Moina の成体は大きくて食えず、それらの幼生すら摂餌は不可能である。 ただ汽水産の輪虫 Brachionus Plicatilis はかろうじて摂餌しうるであろう。 それ故天然のワカサギは小型の輪虫類か原生動物或は植物プランクトンを摂餌しなければならないであろう。 」と述べている。
茨城県牛久沼における定期プランクトン調査(※06〜※10)の事例から、 巾又は直径(長さは不問)が、115〜170μmに該当する天然餌料生物を挙げれば、 ツボワムシ Brachionus calyciflorus f.amphiceros ・ハネウデワムシ Polyarthra frigla ・テマリワムシ Conochilus hippocrepis ・ミドリムシ Euglena属等となる。
従って、ワカサギ増殖事業においては、ふ化直後の仔魚放流先(漁場)におけるプランクトン調査を通じた、 上述のプランクトン類の存在確認が欠かせない要件といえる。
●本報告が、自然水域でワカサギふ化仔魚を採取したケースの、仔魚日齢の簡易判定 (現地における注意深い目視・生物顕微鏡観察)に資すれば嬉しい。

【参考文献】
(※01)岩井 保(1968)「外部形態」魚類学(上),26-32pp,水産学全集第9巻,再版,恒星社厚生閣,東京
(※02)山岸 宏(1974)「諏訪湖におけるワカサギ稚魚の生態」日本生態学会誌vol.24 (1)10-21pp
(※03)代田昭彦(1975)「若幼魚及び稚仔魚の口径と餌料」水産餌料生物学,170-187pp,恒星社厚生閣,東京
(※04)浅見大樹(2004)「網走湖産ワカサギの初期生活に関する生態学的研究」北海道立水産試験場研究報告67号,40pp
(※05)久下敏宏(2006)「群馬県におけるワカサギの増殖に関する研究」群馬県水産試験場研究報告第12号別冊
(※06)よしさん(2006)「牛久沼(レンタルボートたまや沖)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※07)よしさん(2007)「牛久沼(レンタルボートたまや沖)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2008)「牛久沼(レンタルボートたまや沖)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2008)「牛久沼(レンタルボートたまや沖)におけるワカサギ初期餌料調査報告(2008)」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2009)「牛久沼で産卵したワカサギ(2009年主群)用、初期餌料調査報告」http://wakasagi.jpn.org/

観察期間:2009年03月21日(土)〜03月25日(水)の5日間
発表:2009年04月10日(金) 牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
転載許可:牛久沼漁業協同組合ホームページに本稿転載を許可します。よしさん。

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