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ワカサギふ化放流ノート
茨城県牛久沼におけるモツゴの産卵場と産卵基質選択
Spawning ground and the spawning ground substance choice of the Pseudorasbora parva in the Ushiku-swamp,Ibaraki.
【目的】
モツゴ(クチボソ)は牛久沼漁業協同組合の漁業権魚種の一つで、牛久沼漁協は毎年成魚を購入し放流してきた。
しかし、茨城県牛久沼におけるモツゴの生活環や自然加入資源量等は、ほとんど未解明であった。
牛久沼におけるモツゴ産卵場事例と産卵開始時期については、既に2008年(※03〜04)・2009年(※05〜06)に報告している。
資源管理型増殖を進め、遊漁者・漁業者にモツゴ資源を安定供給するため、人工産卵床の設置場所と素材を組合せ、モツゴの選択性に合致する効果的な方法を調査した。

【結果】
fig.05 モツゴ産着卵(A区)
fig.05 牛久沼のモツゴ産着卵(A区)
fig.06 モツゴ産着卵(B区)
fig.06 牛久沼のモツゴ産着卵(B区)
●2009年06月28日(日)、牛久沼に設置した産卵床を観察したところ、産卵基質(塩ビパイプ)に多数の産着卵を発見した(fig.05-fig.06)。
●産卵基質2種のうち、ポリプロピレン製ロープへの産着卵は見当たらず、塩ビパイプのみに産着卵が集中していた。
●塩ビパイプの産着卵は、パイプの下面に集中しており、側面と上面には見当たらなかった。
●産卵床の設置場所の相違(A区とB区)による、塩ビパイプへの産着状況に、著しい相違は見られなかった。
◎他の特徴をまとめると、以下のようである。
●産着卵は列状であった
●胚の発生段階は混在しており、既にふ出を終えて卵幕の残骸が剥離した痕跡のような箇所も観察した。
●産着卵は概ね清潔で、産卵基質(キンラン)の事例(※05)に見た水生菌繁殖によるタンポポの穂状態の卵は皆無であった。
●塩ビパイプ1本あたり産着卵の総数を実測したところ、 50φで約3,000粒、40φで約2,500粒であることが明らかになった(fig.05-fig.06)。

【方法】

fig.01 設置場所A区 fig.02 A区の産卵床
fig.01 設置場所A区 fig.02 A区の産卵床
fig.03 設置場所B区 fig.04 B区の産卵床
fig.03 設置場所B区 fig.02 B区の産卵床
●塩ビパイプを用い、一辺1mの正方形枠を4枠製作した。
●正方形枠に、長さ1m強の塩ビパイプ(VU管40φ及び50φ)の両端を結びつけ、 産卵基質とした。
●また、正方形枠に、ポリプロピレン製ロープ(白色・径約5mmの市販品)を巻き付け、産卵基質とした。
●設置場所A区を、陸上から沖(水深2.0m)へ、なだらかな自然勾配が続く底部形状で、 60〜80m幅に及ぶ水生植物帯の中央付近、水深は50〜60cm程度の場所に定め、2009年05月28日、上記産卵床 を2枠水平に設置した。
●設置場所B区を、60〜80m幅に及ぶ水生植物帯の岸側につくられた水路状の開水面、 水深は50〜60cm程度の場所に定め、2009年05月28日、上記産卵床を2枠水平に設置した。
●人工産卵床の設置場所は、A区及びB区ともに、牛久沼東谷田川筋の左岸(東岸)に位置する。

【考察】
●産卵基質2種のうち、モツゴの選択は塩ビパイプであった。
●産卵床の設置場所の相違(A区とB区)による、塩ビパイプへの産着状況に、著しい差異が見られなかったことは、 水生植物帯がほぼ全ての湖岸線を覆う牛久沼においては、ほぼ全ての湖岸線が産卵床の設置場所に適することを示唆しており、 産卵床の設置場所の展開が可能である。
●胚の発生段階は混在しており、「既にふ出を終えて卵幕の残骸が剥離した痕跡」が見られることから、 2009年05月28日設置以降、06月28日の観察日までに、何度か繰返し産着されたと考えられる。
●産着卵が概ね清潔であったことから、親魚が付近にいて胚の管理をしていたと考えられる。
産卵基質が軟質(キンラン)の事例(※05)では、胚は水生菌繁殖によるタンポポの穂状態で、 親魚による胚の管理意欲に何らかの忌避条件があったものと推定される。
従って、産着卵のふ化率向上(親魚に胚の管理をさせ、水生菌繁殖を抑制する)のために、産卵基質は揺れ動く軟質素材よりも、 真竹・塩ビパイプ等の固定された硬質素材がモツゴの好みであろう。
ここに見える含意から、産卵基質の硬軟は、漁場(または養魚場)のコイ科有用魚種に対し、水平展開できる可能性が高い。
●モツゴ増殖計画立案に必要な産卵床面積算定のため、試験に用いた塩ビパイプの表面積を以下に示す。
☆塩ビパイプの直径5.0cm、長さ1.0mの産卵床面積を求め、
@S=πD=3.14×5.0=15.7cm
A0.157m×1.0m=0.157m2
B(パイプの下面に集中していたため)0.157m2×有効40%とし、0.062m2と算定。
☆塩ビパイプの直径4.0cm、長さ1.0mの産卵床面積は、
@S=πD=3.14×4.0=12.56cm
A0.1256m×1.0m=0.1256m2
B(パイプの下面に集中していたため)0.1256m2×有効40%とし、0.05m2と算定。
●これらの観察事実を踏まえ、適切な産卵基質を用いた、適当産卵床面積を有する人工産卵床を、相当期間にわたり設置(反復産卵)することにより、 牛久沼内モツゴ親魚から、新たに希望する加入資源量を得るための定量的計画立案が可能になった。
塩ビパイプ50φを用いた計画式を示せば、新たに希望するモツゴ加入資源量は
=産卵床面積×設置期間(反復産卵回数) となる。
留意すべき2点の内、ひとつはモツゴ加入資源量で正確には産着卵数で、ふ化仔魚数ではないこと。
2点目は、式に対し漁場による係数が必要になる可能性があること、であろう。
●他の産卵基質を用いた試験は、次シーズンの課題としたい。

【参考文献】
※01 青柳兵司(1979):モツゴ.日本列島産淡水魚類総説(復刻版).淡水魚保護協会.大阪,pp.106−108.
※02 宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦(1981):
モツゴ.原色日本淡水魚類図鑑(原色図鑑32)全改訂新版6刷.保育社.大阪,pp.186−188.
※03 よしさん(2008):「モツゴの産卵場と産着卵(茨城県牛久沼の事例)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※04 よしさん(2008):「牛久沼のモツゴ前期仔魚(ふ出翌日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※05 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ仔魚(ふ出当日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※06 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ仔魚(ふ出当日)大判写真」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※07 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ前期仔魚(ふ出翌日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報

観察・撮影【結果の部】:2009年06月28日(日)14:00 ◎● 気温26.0℃ at12:00 水温未測定 水位YP5.96m 水色ややマッディー
発表:2009年07月02日(木) 牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
転載許可: 牛久沼漁業協同組合ホームページ に本稿転載を許可します。よしさん。

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