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ワカサギふ化放流ノート
茨城県牛久沼におけるモツゴの産卵開始時期及び産卵床位置の嗜好性
The spawning season start time of the Pseudorasbora parva and
the palatableness of the spawning bed position in the Ushiku-swamp,Ibaraki.
【目的】
モツゴ(クチボソ)は牛久沼漁業協同組合の漁業権魚種の一つで、牛久沼漁協は毎年成魚を購入し放流してきた。
しかし、茨城県牛久沼におけるモツゴの生活環や自然加入資源量等は、ほとんど未解明であった。
牛久沼におけるモツゴ産卵開始時期については、既に2008年(※03〜04)・2009年(※05〜08)に事例報告しているが、 さらに早い産卵開始時期を明らかにするため、調査を実施した。

【結果】
fig.01 産卵床(対照区と水面型)
fig.01 産卵床(対照区と水面型)
fig.02 モツゴ産着卵(対照区)
fig.02 牛久沼のモツゴ産着卵(対照区)
●2010年04月14日(水)、牛久沼に産卵床(水面型)を8枚、対照区4枠設置(YP6.04m)。
●2010年04月23日(金)、対照区1枠に2cm×40cmの産着卵あり。
●2010年04月26日(月)、産卵床(水面型)2枚に数個ずつの産着卵あり。
●2010年05月01日(土)、対照区3枠に極少ずつの産着卵あり。
●2010年05月03日(月)、対照区2枠に本格的な産着卵あり(YP6.19m)。
対照区の産着卵の状況を、fig.02 に示す。

【方法】

fig.03 産卵床設置状況
fig.03 産卵床設置状況
●産卵床(水面型)は、桐製スノコ(50cm×33cm×厚み2.8cm)の下面に、 プラスチック板(厚み4mm)を取り付け、8枚製作した。
●プラスチック板の色は、白色2枚・灰色4枚・黒色2枚とした(fig.01 右の3枚)。
●産卵床(対照区)は、塩ビパイプを用い、一辺1mの正方形枠を4枠 とし、正方形枠に、長さ1m強の塩ビパイプ(VU管40φ及び50φ)の 両端を結びつけた。
●設置場所は、60〜80m幅に及ぶ水生植物帯の岸側につくられた水路状の開水面で、 水深は50〜60cm程度の場所とした(fig.03)。
●設置場所に(fig.03写真手前から)、 産卵床(水面型)3枚・(対照区)3枠・(水面型)2枚・(対照区)1枠・(水面型)3枚の順に、 産卵床を設置し、毎日引き揚げて産着卵の有無を目視確認した。
●産卵床の設置場所は、牛久沼東谷田川筋の左岸(東岸)に位置する。

【関連追跡試験】
産着卵からふ出する仔魚が、モツゴであるかを確認するため、 産卵床2種の内、今回対照区とした塩ビパイプ産卵基質の発眼卵区間から、発眼卵の一部を採取し、 持ち帰り(05月03日)、室内設置ビーカー内で育成ふ化させた(05月06日朝)。
あいにく、04日広島で気温30.7℃・05日岐阜で気温32.3℃・06日福島で気温33.3℃等の猛暑が 続き、室内設置ビーカー内の水温も上昇したため、日中は冷蔵庫に避難させ、夜間は室内静置、用水は上水を屋外に24時間汲み置き 事前に残留塩素を飛ばしたものと毎日全量置換、ビーカー内の水をスポイトで採り、上空より水面に噴出させてDoを補う育成管理を実施した。
05月05日の産着卵検鏡状況を、fig.04-fig.05 に示す。

fig.04 産着卵検鏡a fig.05 産着卵検鏡b
fig.04-fig.05 産着卵検鏡
【特徴】
●半透明の卵幕が厚く、ゴミが付着し、中(胚)が鮮明に見えにくい
●しかし、心臓の動きは、良く観察できる
●卵の直径は、約1.5mmである

05月06日朝、ふ出仔魚を認め、5%ホルマリン固定し、検鏡し撮影した。
ふ化当日仔魚A-Bを、fig.06-fig.07 に示す。

fig.06 ふ化当日仔魚A
fig.06 ふ化当日仔魚A
fig.07 ふ化当日仔魚B
fig.07 ふ化当日仔魚B
【特徴】
●仔魚全長は4.75mm(fig.06)及び、4.72mm(fig.07)である
(写真計測:背景のグリッドは0.1mm=100μm間隔)
●瞳孔は(写真では)黒いが、(目視で)虹彩は金色である
●浮袋を備えている
●黒色胞(菌糸状)は目立たないが、頭部背面・卵黄側面にある
●卵黄は明確である
●仔魚は上方から見た姿が、メダカに似ている
●産着卵は列状であった
●上記から、モツゴ仔魚と同定した

【考察】
●04月14日(水)産卵床設置後、
15日(木)天候●・水温10℃、
16日(金)天候●・水温10℃、
17日(土)天候雪●、と続き、
21日(水)天候○・真夏日、
22日(木)天候●・寒い日、
23日(金)天候●・都心気温10.1℃・寒い日、
等と、気候は大変調の異常な04月であったが、23日(金)対照区の塩ビパイプに列状の産着卵を、今季初確認した。
前年(2009)は平常気象下で、04月25日に観察しており(※05・※06)、 牛久沼におけるモツゴ産卵開始時期について、新たに04月23日が明らかになった。
●しかし、今季は異常気象であったため、平常気象の牛久沼におけるモツゴ産卵開始時期については、産卵臨界温度的にさらに遡る可能性があり、 次シーズンに引き継ぐ課題としたい。
●産卵基質については、2種のうち、概ね(水面型)に 産着卵が少なく、(対照区)とした塩ビパイプに産着卵が集中していた。
さらに詳細を観察すると、塩ビパイプの産着卵は、1m四方の外枠に見当たらず、 外枠に両端を結びつけた、長さ1m強の塩ビパイプ(VU管40φ及び50φ)に集中していた。
該当する1枠は、設置姿勢が他の枠のように(サーフェイスで)水平にならず、1辺が水面にあり、対する辺が 水底に接地した(枠を斜めに設置したような)状態であった(fig.03写真手前から2群目)。
産着卵が集中していた塩ビパイプ(VU管50φ)は、泥質の水底から約10cm上方に位置し、水平姿勢であった。
モツゴは、水面の塩ビパイプ(対照区)・水底から約10cm上方の塩ビパイプ(対照区)・水底の塩ビパイプ(対照区・外枠)・プラスチック板(水面型) の4種から、「水底から約10cm上方の塩ビパイプ(対照区)」を産卵基質に選択した。
●選択した要因の推定から、以下の暗示が得られる。
(1)水底からの距離(の遠近)
(2)風雨波浪による産卵床の動・不動
(3)異常気象(水温)又は産卵開始期習性
(4)その他未知事項

(1)水底からの距離(の遠近)は、底性のモツゴ(オス♂)がメス♀を誘う力と、受精卵メンテナンスの難易に関係する可能性がある。
ただ、2009年06月の事例(※08)では、水面の塩ビパイプ下面に産着卵が見られたことから、産卵盛期には水底から産卵床までの距離 50〜60cmは、無視できる条件であろう。
(2)産卵床の動・不動は、モツゴ(オス♂)が自分の産卵床を見失わず特定できる能力の難易度に関係する可能性がある。
少なくとも、まだ低水温の産卵開始期において、産卵床位置の嗜好性は「水底から約10cm上方の塩ビパイプ」にあることが明らかになった。
●これらの観察事実を踏まえ、他の形態の産卵床を用いた試験も、今後の課題としたい。

【参考文献】
※01 青柳兵司(1979):モツゴ.日本列島産淡水魚類総説(復刻版).淡水魚保護協会.大阪,pp.106−108.
※02 宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦(1981):
モツゴ.原色日本淡水魚類図鑑(原色図鑑32)全改訂新版6刷.保育社.大阪,pp.186−188.
※03 よしさん(2008):「モツゴの産卵場と産着卵(茨城県牛久沼の事例)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※04 よしさん(2008):「牛久沼のモツゴ前期仔魚(ふ出翌日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※05 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ仔魚(ふ出当日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※06 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ仔魚(ふ出当日)大判写真」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※07 よしさん(2009):「牛久沼のモツゴ前期仔魚(ふ出翌日)」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報
※08 よしさん(2009):「茨城県牛久沼におけるモツゴの産卵場と産卵基質選択」.亀山湖牛久沼ワカサギ情報

観察・撮影【結果の部】:2010年05月03日(月)15:00 ○ 気温23.0℃ at15:00 水温21.0℃ at15:00 水位YP6.19m 水色ややマッディー
発表:2010年05月09日(日) 前・牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
調査費助成: 本調査費用の一部は、Mr.H.Shirai and Mr.K.Ootsuka 各氏の助成によるものです。
記して感謝します。よしさん。

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