スポンサードなし、よしさんの自費研究成果です

ワカサギふ化放流ノート
白樺湖の動物プランクトン相の魚類餌料的考察
Consideration of the fish bait charges of the zooplankton aspect of the lake Shirakaba.
白樺湖
fig.01 白樺湖 The lake Shirakaba.
【白樺湖の動物プランクトン相の魚類餌料的考察】
【白樺湖概要】
長野県白樺湖は、天竜川水系上川支流音無川の上流(元来は高層湿原)に 1946(昭和21)年に築かれた、 湛水面積35ha・湖岸線約3.8km・湖面標高1416m・最大水深9.1mの 灌漑用溜池(人造湖)である(※04,※11、他数値に諸説あり)。

【4定点プランクトン集計】
白樺湖の3ケ所(※13〜※15)、及び下流の第2白樺湖(※16)の プランクトン調査結果は別報にそれぞれまとめているが、 4定点を一覧できるよう集計したものを表01に示す(table.01)。

属・種名 上流st.sj 第2桟橋沖st.sp 堰堤前st.sd 第2白樺湖st.s2
ケンミジンコ属
Cyclopoida sp.
★★★ ★★★ ★★★ ★★
ヒゲナガケンミジンコ属
Diaptomidae sp.
ゾウミジンコ
Bosmina longirostris
★★ ★★ ★★ ★★
カブトミジンコ(尖頭)
Daphnia longispina galeata
★★ ★★ ★★ ★★★
ダフニア
Daphnia pulex
★★ ★★ ★★ ★★
ホロミジンコ
Holopedium gibberum Zaddach
★★
ハネウデワムシ
Polyarthra dolichoptera
★★ ★★
テマリワムシ
Conochilus hippocrepis
★★★ ★★★
ツボワムシ
Brachionus calyciflorus f.dorcas
カメノコウワムシ
Keratella sp.
★★
カメノコウワムシ
Keratella cochlearis
★★
コシボソカメノコウワムシ
Keratella valga
★★
フクロワムシ
Asplanchna priodonta
★★
ナガミツウデワムシ
Filinia longiseta
ツノオビムシ
Ceratium hirundinella
(肉質鞭毛虫門)
渦鞭毛虫の一種
Dinoflagellida .spp
サヤツナギ属
Dinobryon(原生動物)
★★ ★★ ★★
シネドラ属(珪藻)
Synedra acus
アオミドロ属(緑藻)
Spirogyra sp.
★★ ★★ ★★★ ★★
属・種名 上流st.sj 第2桟橋沖st.sp 堰堤前st.sd 第2白樺湖st.s2
凡例  ★★★=多い ★★=中程度 ★=少ない −=未確認
表01 白樺湖の動物プランクトン相(2010年05月)table.01

【プランクトン相からの湖沼プロファイリング】
先ず、湖沼名は不知と仮定し、上記の表01「白樺湖の動物プランクトン相(2010年05月)」の属・種名を ながめ、該当水体の類型を推定してみる。
すると、ほとんどのプランクトンは、関東平野の低地に位置する湖沼 (ex 亀山湖・雄蛇ケ池・牛久沼他)においても観察される属・種であることが判る(※06)。
それゆえ、該当水体は関東平野の低地に位置する湖沼と誤認される恐れさえある。
北方起源とされるホロミジンコの存在は、唯一の例外で、該当水体が比較的高緯度に位置するか、または ハイランドに存在する湖沼を窺わせる根拠で(※05)、 よしさんも以前、山形県水窪ダム貯水池と蛭沢湖でホロミジンコを観察している(※07〜※09) 点で、該当水体は関東平野の湖沼ではない可能性が浮上する。
他方で、中華人民共和国の事例(※01)や、ハイランドの事例に西蔵高原を引き、よくよく考えれば、 フクロワムシAsplanchna priodonta は標高4620m、 ナガミツウデワムシFilinia longiseta は標高4400m及び4900m、 カメノコウワムシKeratella cochlearis は標高4330m及び4750m、地点で観察されており(※02)、 これらの種の単独情報のみでは、生息湖沼の絞り込みは困難である。
しかし、森下郁子が『ダム湖の生態学』の「ダム湖で大発生することが予測できるプランクトン」の中で、 「貧養塩から中養塩の水域でみられる針状珪藻である(※03)と指摘した シネドラ属 Synedra acus を併せると、本ケースにおいてハイランド説の遠因になろう(※10)。
一方、テマリワムシ・ナガミツウデワムシ・ツノオビムシ・サヤツナギ属(原生動物) が同時に観察され、且つ、アオミドロ属(緑藻)の存在するコンディションから、 該当水体水質は富栄養化段階と考えられる。
出現個体数は後者が勝っており、該当水体は「高緯度またはハイランドに位置する富栄養化段階の湖沼」 であろうと、プランクトン相からの湖沼プロファイリングが成立する。

【白樺湖の動物プランクトン相の魚類餌料的考察】
05月の白樺湖のプランクトンは、 ミジンコ類6種・ワムシ類8種・原生動物3種、植物プランクトン2種を確認した(table.01)。
上記を、ワカサギ餌料として考察 すれば、ふ化仔稚魚の口径に最適なサイズ(※12)のテマリワムシ・カメノコウワムシ類が多く、 仔稚魚を未成魚へ育てる天然餌料エスカレータは、先ず1段目が稼働中と言える。
ワカサギ成魚には、中大型プランクトンのヒゲナガケンミジンコ属・ケンミジンコ属やダフニアが 良い餌料になり、天然餌料エスカレータの2段目も同時に稼働中と言える。
従って、白樺湖でワカサギを増殖したい場合には、この時期にふ化仔魚を湖水に放流すれば、初期餌料 プランクトンに容易に遭遇でき、生残率が高いものと、ひとまず考えられる。
しかし、通年あるいは永年にわたるプランクトンの観察記録が手元になく、06月以降の餌料プランクトン の動向は推定の域を出ない。
湖沼の仕様面では、アシを主とする水生植物と、砂底及び流入河川の存在が自然産卵繁殖の可能性 も暗示している。

【その他】
● 白樺湖では、1969(昭和44)年に水の華(アオコ現象)が確認され、 1981(昭和56)年に、白樺湖下水道浄化センター稼働開始と聞くが、 2010年現在のプランクトン相から見た白樺湖は、依然として富栄養化段階の湖沼と考えられる。
下水道加入率向上・下水道管渠と雨水管渠の誤接続チェック・流域面積内における各種薬剤散布量の最小化等、 正攻法による白樺湖への栄養塩類流入減少努力の継続を希望する。
地元住民が白樺湖に透視度を求める場合、水中の懸濁物質(ss)を減少させれば、目的が達成できることは明白であるが、 透視度よりも観光収入に直結する遊漁資源量増大を第一義とする場合には、遊漁者を呼べる魚種の 放流・増殖が推進されねばならない。
● 白樺湖におけるプランクトンの観察報告を、市販書とインターネット上に探したが見当たらず、 その多くは学会誌や学術報告書・学内論文等の組織内資料としてのみ扱われ、地元住民や 一般者が簡単に閲覧でき、学習可能な状況にないように思われ大変残念である。
本報はその現状を踏まえ、少なくとも、よしさんの調査範囲については、いつでも、誰でも、自由にアクセスし、 閲覧できるようインターネット上に掲載するものであり、有識者の活用を歓迎する。
● かつて白樺湖で確認されたと巷間伝わる、シカクミジンコ・シダ・ノロ等は、 調査季節(出現時期)不一致の問題もあり、今回未確認のため、 将来の追跡テーマとしたい。

【参考文献】
(※01)蒋燮治・堵南山(1979):『中国動物誌 節足動物門甲殻綱淡水枝角類』第1版,vi+297pp,科学出版社(北京),3.00元
(※02)蒋燮治(1983):『西蔵水生無脊椎動物』第1版,vi+492pp,科学出版社(北京),80元
(※03)森下郁子(1984):『ダム湖の生態学』第2刷,199pp,山海堂,\2500+税
(※04)窪田文明(1997):『信州の湖紀行』初版,159pp,郷土出版社(松本市),\1800+税
(※05)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』第1版第1刷,551pp,東海大学出版会,\18900
(※06)よしさん(2006〜2010):「亀山湖牛久沼ワカサギ情報」http://wakasagi.jpn.org/
(※07)よしさん(2008):「山形県水窪ダム貯水池の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2008):「山形県水窪ダム貯水池のホロミジンコ」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2008):「山形県蛭沢湖の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2008):「亀山湖のシネドラ属」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)Wikipedia(2010):『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/
(※12)よしさん(2010):「ワカサギふ化仔魚の口器及び口径観察日誌(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※13)よしさん(2010):「白樺湖(上流)の動物プランクトン」(2010年05月)http://wakasagi.jpn.org/
(※14)よしさん(2010):「白樺湖(第2桟橋沖)の動物プランクトン」(2010年05月)http://wakasagi.jpn.org/
(※15)よしさん(2010):「白樺湖(堰堤前)の動物プランクトン」(2010年05月)http://wakasagi.jpn.org/
(※16)よしさん(2010):「第2白樺湖(左岸)の動物プランクトン」(2010年05月)http://wakasagi.jpn.org/

プランクトン採取:2010年05月18日(火)〜19日(水) 白樺湖(長野県茅野市&立科町)にて
 検鏡及び同定:2010年05月19日(水)〜22日(土)
 発表:2010年05月25日(火) ワカサギ研究家よしさん
調査費助成: 本調査費用の一部は、 Mr.Y.morozumi 氏の助成によるものです。
記して感謝します。よしさん。

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