【千葉県雄蛇ケ池のマルミジンコ】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※03)。
2010年07月04日(日)、ボートハウスツカモト桟橋で(ボートを使用せず)プランクトンを採取し、
現地でただちにホルマリン固定の上、持ち帰り検鏡観察した結果は、既に報告している(※09〜※14)。
雄蛇ケ池で採取し保存中のサンプルを用い、このほど追加観察を実施したところ、(既報以外の)枝角類1種2個体を新規に確認した(fig.01-fig.02)。
♀メス2個体を仔細に観察し、『中国動物誌 節足動物門甲殻綱淡水枝角類』(※01)・『日本淡水動物プランクトン検索図説』(※04)と比較照合し、
日本で普通に見られる、
マルミジンコ科 CHYDORIDAE マルミジンコ亜科 CHYDORINAE マルミジンコ属 Chydorus マルミジンコ Chydorus Sphaericus(fig.01-fig.02)と、種の同定をした。
マルミジンコ科は、世界に4亜科25属170種余、日本に3亜科12属(※04)、中国に3亜科21属59種(※01)が知られ、
マルミジンコ亜科は、日本に4属8種(※04)、世界に11属、中国に10属28種(※01)が知られている。
従って、雄蛇ケ池で確認したマルミジンコ Chydorus Sphaericus(fig.01-fig.02)は、日本の4属8種のうちの1種である。
日本と中国のマルミジンコ亜科を比較すると、
マルミジンコ属 Chydorus は日本に3種(※04)・世界に40種余・中国に8種(※01)、
ハシミジンコ属 Pleuroxus は日本に3種(※04)・世界に20種余・中国に8種(※01)、
シカクミジンコモドキ属 Alonella は日本に1種(※04)・世界に20種・中国に5種(※01)、
ドウンヘベディア属 Dunhevedia は日本に1種(※04)・世界に4種・中国に1種(※01)であり、さらに、
中国で知られ日本で未記録の属に、
Reracantha 1種(※01)、Cornuella 1種(※01)、Dadaya 1種(※01)、Disparalona 1種(※01)、Anchistropus 世界に2種・中国に1種(※01)、
Pseudochydorus 1種(※01)がある。
♀メス体長 0.40-0.72mmでほぼ球形、多角形網紋を有し、微酸性水域に通年出現し、秋季に最多個体数になる
Pseudochydorus globosus (Baird, 1843)は、日本にも分布すると中華人民共和国側で記載される(※01 261-262pp)が、その出典は掲載されておらず、気に掛かる。
日本で普通に見られるマルミジンコのハイランドにおける動向を、
『西蔵水生無脊椎動物』(※02)に見ると、中国のマルミジンコ科20属62種のうち、西蔵に14属29種が知られ(452pp表2, 456pp)、
その分布高度も、Pleuroxus は海抜2500〜4500m間に普通で、5050mと5400mの水坑にも出現し(458pp)、
Chydorus は海抜5000m前後の水体中に(459pp)、また Acroperus harpae Baird は海抜2200m・3200m・3650m・4200mに見られる(456pp)とされ、
高度順応に驚愕する。
よしさんは、茨城県牛久沼で、2008年09月18日にマルミジンコ科の一種を(※05)、
2009年04月22日に美しいコシカクミジンコを(※06・※07)、2010年05月10日にマルミジンコ科の一種を(※08)、観察し報告している。
マルミジンコ科は、広温性の世界種を多く含み、世界と日本で未記録の新種が発見される可能性も高く、水体を網羅した継続的観察が望まれる。
【謝辞】
プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたボートハウスツカモトに感謝します。
【参考文献】
(※01)蒋燮治・堵南山(1979):『中国動物誌 節足動物門甲殻綱淡水枝角類』第1版,130-143pp,科学出版社(北京),3.00元
(※02)蒋燮治(1983):『西蔵水生無脊椎動物』第1版,vi+492pp,科学出版社(北京),80元
(※03)よしさん(1996〜2010):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※04)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』1-551pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※05)よしさん(2008):「牛久沼(レンタルボートたまや桟橋)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※06)よしさん(2009):「牛久沼のコシカクミジンコ」http://wakasagi.jpn.org/
(※07)よしさん(2009):「牛久沼における、ワカサギ初期餌料調査報告(200904)」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2010):「牛久沼のモツゴふ化仔魚用初期餌料調査報告(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2010):「雄蛇ケ池でふ化した仔稚魚用、餌料プランクトン調査報告(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2010):「アオコ現象連続発生の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)よしさん(2010):「千葉県雄蛇ケ池の少毛目ハルテリア属」http://wakasagi.jpn.org/
(※12)よしさん(2010):「千葉県雄蛇ケ池のヒロハネウデワムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※13)よしさん(2010):「千葉県雄蛇ケ池のミジンコワムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※14)よしさん(2010):「千葉県雄蛇ケ池のヒメネコゼミジンコ」http://wakasagi.jpn.org/
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