【千葉県笹川湖のツノオビムシと淡水赤潮】
笹川湖(千葉県君津市)は、2001(平成13)年に完成した片倉ダムによる、人造湖である(※04)。
2010年08月20日(金)、レンタルボート笹川桟橋でプランクトンを採取し、
現地でただちにホルマリン固定の上、持ち帰り検鏡観察した結果は、既に報告している(※09)。
【目的】
笹川湖のプランクトン調査結果(※09)中、優占種はボルボックス、第2位はツノオビムシ(fig.01-fig.02)、第3位グループに
ウズオビムシを観察し、他にユーグレナも確認したことを踏まえ、淡水赤潮現象(水の華)の可能性が懸念されたため、検討した。
【考察】
森下郁子は『ダム湖の生態学』(※02)で、
ウズオビムシ・ツノオビムシ(fig.01-fig.02)等の鞭毛虫による淡水赤潮は、
「貧栄養から中栄養へ移行するあたり、すなわち窒素0.3ppm、リン0.02ppm、の栄養塩濃度付近で発生した例が多い」
それ以外の鞭毛虫、ユーグレナ(ミドリムシ)・タマヒゲマワリ等による淡水赤潮は、
「中栄養(窒素0.5ppm以上、リン0.03ppm以上、)に移行するとき、あるいは移行してしまった後の場合が多い」とし、
赤潮現象が発生すると
「5〜6年、あるいはそれ以上、数年、断続的に発生する」と述べている(80pp)。
また、「赤潮が発生するダム湖の水質は栄養塩濃度で窒素は0.1〜0.6ppm、リンは0.01〜0.05ppm、の
いわゆる中栄養程度である。」と、より広範囲の数値をも示している(82pp)。
千葉県が実施している公共用水域水質測定の測定地点に、残念ながら笹川湖はなく、便宜上、笹川湖の流末がすぐ下流の亀山湖に流入した箇所(st.小月橋)を
笹川湖の水質と見なし、亀山湖ダムサイトとの間で、「公共用水域水質測定結果」(※08)から窒素及びリン濃度を集計し、表01(table.01)に示す。
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表01に記録された、笹川湖の完成する前後12年間の水質から、小月橋に注目すると、
●窒素は、1998年〜2002年まで、0.74〜0.67mg/lと高く、(2001年笹川湖完成後)2003年〜2007年までは、0.65〜0.59mg/lと低下し、
2008年〜2009年に、0.70〜0.67mg/lと、再び高くなりつつある。
●リンは、1998年〜2001年まで、0.036〜0.033mg/lと低く、(2001年笹川湖完成後)2002年〜2004年までは、0.053〜0.042mg/lと高くなり、
2005年〜2009年に、0.043〜0.033mg/lと、再び低くなりつつある。
という明確な傾向が読み取れる。
森下郁子の示すガイドライン数値(窒素0.1〜0.6ppm、リン0.01〜0.05ppm)と、上述の傾向を比較すれば、窒素はガイドライン数値を超過しており、
リンはガイドライン数値に概ねおさまっていることが判明する。
従って、亀山湖小月橋の水質を笹川湖の水質と見なすなら、ツノオビムシ・ウズオビムシに起因する笹川湖における
淡水赤潮現象の可能性は、水質的に(今はまだ)ひとまず、低いものと推定される。
一方、亀山湖は「湖沼A類型」に指定されており、現在未達成ながら「湖沼A類型」の基準値は、COD3mg/l以下SS5mg/l以下であることは、周知の通りである。
同時に「湖沼A類型」の水は、水道2級・3級、水産2級にも用いられ、各用途の窒素とリン濃度を掲げれば、
水道2級・3級で窒素0.2mg/l以下・リン0.01mg/l以下、水産2級で窒素0.6mg/l以下・リン0.05mg/l以下が基準値である。
笹川湖も、「湖沼A類型」風に水質改善されて行くことは時代の趨勢であろうから、ワカサギ等の水産生物用とされる水産2級の水質に適合するのは、
時間の問題かも知れぬ。
しかし、既に笹川湖では、ツノオビムシ・ウズオビムシ等が繁殖している(※09)ことに加え、
森下郁子の示したガイドラインと水産2級における窒素とリン濃度の数値は、完全に一致することに注意しなければならない。
なぜなら、近い将来、笹川湖の窒素濃度が若干改善された時、淡水赤潮現象が発生する可能性が高まるからである。
【謝辞】
プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたレンタルボート笹川に感謝します。
【参考文献】
(※01)猪木正三(1981):『原生動物図鑑』,218-219pp,講談社,東京, \25800
(※02)森下郁子(1984):『ダム湖の生態学』,vi+191pp,第2刷,山海堂,東京, \2500
(※03)福代康夫(1995):『日本の赤潮生物-写真と解説-』407pp,第2版,内田老鶴圃(東京), \13390
(※04)よしさん(1996〜2010):笹川湖「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※05)千原光雄(1997):『藻類多様性の生物学』1-386pp,内田老鶴圃(東京), \9000+税
(※06)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』378-379pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※07)よしさん(2007):「牛久沼のミドリムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)千葉県(〜2010):「公共用水域水質測定結果データベース」
http://www.pref.chiba.lg.jp/suiho/kasentou/koukyouyousui/data/index.html
(※09)よしさん(2010):「笹川湖のプランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
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