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ワカサギふ化放流ノート
千葉県雄蛇ケ池における11月のブルーギル稚魚
A bluegill fry of November in onjyaga-ike pond, chiba pref.
【摘要】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)において、2010年11月12日に釣獲されたブルーギル稚魚全長は22.85mmと推定され、 この稚魚のふ化時期は10月05日前後、産卵日は10月02〜03日前後と考察された。
また、雄蛇ケ池における産卵前月の水温はブルーギルの産卵誘発のトリガーたりえる温度であったことが強く示唆された。
「ソウギョ放流がブルーギルの優占種移行という生態系の変化を招いた」事例でもある。

fig.01 ルアーの後部フックに刺さったブルーギル稚魚
fig.01 ルアーの後部フックに刺さったブルーギル稚魚
The bluegill fry which stuck in a rear hook of the lure.
fig.02 全長測定用写真
fig.02 全長測定用写真 A photograph for full length measurement.
【千葉県雄蛇ケ池における11月のブルーギル稚魚】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※03)。
2010年11月12日(金)、レンタルボート使用のルアーフィッシングにおいて、ルアーのフックに ブルーギル稚魚が頻繁に刺さってきたという報告が、最近、釣り人から寄せられた。
従来の知見によればブルーギルの産卵期間は、春から夏とされており、「11月の稚魚」にやや違和感があり、 魚種とふ化時期を明らかにするため、追跡調査を実施したので報告する。

【方法と結果】
当該稚魚は、未保存であった。
幸い、当日ボート上で撮影された「ルアーにブルーギル稚魚が刺さった写真」のあることがわかり、 その写真を釣り人に寄贈願い、デジタル写真全5枚の中から、比較的映りの良い1枚(fig.01・原寸大)を用いて、稚魚全長を 検討した。
写真(fig.01)をパソコン上で、画像処理ソフトにより400%に拡大し、トリミングを施し必要範囲の「全長測定用写真」(fig.02)を作成した。
ルアーの後部フック(3本碇形)のゲイブ間隔A’(fig.02・黄色線区間)、及び稚魚全長B’(fig.02・白色線区間)を、 ディスプレイの「全長測定用写真」上で測定し、A’=35mm、及びB’=100mmを得た。
これを比例式
 A’:B’=X:Y にあてはめると、 35:100=X:Y となる。
 Xの値は、よしさん所有実物実測から、8mmであったから、比例式は
 35:100=8:Y と書き直すことができ
 外項の積と内項の積は等しいから
 Y=22.85mmが判明する
ゆえに、「全長測定用写真」(fig.02)の稚魚の全長は、22.85mmと推定した。

【考察】
魚種については、第1に写真提供者(当日の釣り人)よりブルーギルであったと伺ったこと。
第2に、孫引きながら『ブラックバスとブルーギルのすべて』(※02)の第1章第3節ブルーギル(4)成長に掲載された、 香川県水産試験場横川孝治主任技師の報文に、「体側に鱗の出現が始まると同時に、暗色横帯の形成が尾柄部より開始される」 (中村ほか,1971)と記述された特徴が、寄贈された写真(fig.01-02)からも見てとれることにより、ブルーギル稚魚と判定した。
先に求めた稚魚の全長22.85mmから、ふ化時期を求めるため、 上述の報文中の、「表1−3−4−1 ブルーギルの初期成長」(Werner,1969より)を見ると以下の通りである(一部抜粋)。

ふ化後日数
測定尾数
平均全長mm
標準偏差
全長範囲mm
38
23.0
2.17
20〜26
table.01「ブルーギルの初期成長」

Werner により北米ミネソタで調査された初期成長から、全長22.85mm近辺のデータを見ると、23.0mmに 成長するには、ふ化後38日を要したことが判る。
一方、ブルーギルの(及び他の魚種でも)初期成長には、生息地・生息密度・餌料環境等による地域的相違のあることは定説化しており、 普遍的なひとつだけの数値が存在する可能性は低いという見方もある。
それでも仮に、この数値を採用すると、釣獲日11月12日から38日以前は、10月05日となる。
従って、当該稚魚は、10月05日前後にふ化したものと、考えられる。

また、さかのぼって産卵日を検討すると、『原色日本淡水魚類図鑑』(※01)で「受精後3〜5日でふ化し、」とされ(322pp)、 『ブラックバスとブルーギルのすべて』(※02)では「受精後ふ化までの時間は、水温18.5℃で75〜85時間、 20〜21℃で48〜52時間、24.5℃で37〜43時間、28.5℃で27〜29時間であり、水温が高いほどふ化までの時間が 短くなる傾向が非常に明瞭である。」(117pp・引用箇所の出典省略)とされる。
加えて、10月05日前後の雄蛇ケ池における水温は未測定ながら、10月11日雄蛇ケ池(裏堰堤)気温28℃の観測記録(※07)もあり、 10月05日前後の水温は少なくとも20℃以上と推定され、これらを総合すると受精後2〜3日でふ化した可能性が高く、 産卵日は10月02〜03日前後と見られる。
なお、10月02〜03日の潮汐は長潮〜若潮で、大潮は06〜09日であり、本事例は世に言う「大潮の日に産卵する」ことには当たらない。

産卵誘発について、『ブラックバスとブルーギルのすべて』(※02)に「ブルーギルは一産卵期に多回産卵を行うために産卵期が 比較的長いことが特徴であるが、ダムからの温排水のために周年にわたって温暖な湖では、ブルーギルは年間に9ケ月間以上 産卵活動をしているという報告もある(Janssen and Giesy,1984)。このようなことから、ブルーギルの生殖行動には水温環境が 最も大きな誘発要因であると考えられる。」の記述がある(114pp)。
産卵前月の気温を検討すべく、銚子地方気象台の発表する「千葉県の気象・地震概況」2010年09月(※06)中の月統計値表(千葉)から、 月間気温を見ると、平年23.0℃・本年24.8℃で、階級区分は「かなり高い」と判定されている。
さらに、ソウギョ放流により池中の水生植物が壊滅的打撃を受け、日射による水温上昇を緩和する機能を失った、 平均的水深2m弱程度の雄蛇ケ池の環境(※04〜05)を考慮すると、雄蛇ケ池における産卵前月の水温はブルーギルの産卵誘発の トリガーたりえる温度であったことが強く示唆される。
このことは、ソウギョが生息する雄蛇ケ池において、来春からのブルーギル産卵期の長期化とブルーギルの優占種移行が、 加速されることを暗示し、極端に換言すれば「ソウギョ放流がブルーギルの優占種移行という生態系の変化を招いた」とも言える。

釣り場ウォッチャーでもある釣り人から提供された釣り場情報を、可能な限り解析し、釣り人共有財産として還元することも、 よしさんに与えられた仕事のひとつであろう。

【謝辞】
写真5点を寄贈頂いた釣り人(ハンドルネーム・ひろさん&その友人氏)に感謝します。

【参考文献】
(※01)宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦(1981):
ブルーギル.『原色日本淡水魚類図鑑』(原色図鑑32)全改訂新版6刷.保育社.大阪,pp.322−324. \4300
(※02)羽生 功(1992):『ブラックバスとブルーギルのすべて』75-107pp,全国内水面漁業協同組合連合会(東京), \3000
(※03)よしさん(1996〜2010):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※04)よしさん(2010):「雄蛇ケ池でふ化した仔稚魚用、餌料プランクトン調査報告(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※05)よしさん(2010):「アオコ現象連続発生の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※06)銚子地方気象台(2010):「千葉県の気象・地震概況」http://www.jma-net.go.jp/choshi/gaikyo/
(※07)つかじー(2010):雄蛇ケ池(裏堰堤)気温観測記録「雄蛇ヶ池の話〜蛇の道は蛇〜」http://ojyagaike.naturum.ne.jp/

釣獲:2010年11月12日(金) 天候○ 気温:19.4℃ (at12:00 mobara) 水温:未測定
発表:2010年12月14日(火)前・牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0001 雄蛇ケ池
転載許可: 「雄蛇ヶ池バスフィッシングガイド」 に本稿転載を許可します。よしさん。

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