スポンサードなし、よしさんの自費研究成果です

ワカサギふ化放流ノート
群馬県榛名湖のプランクトン
Microphotographs of the freshwater plankton of Lake Haruna, gunma.
fig.01 小雪舞う榛名湖
fig.01 小雪舞う榛名湖

【群馬県榛名湖のプランクトン】
湖面標高1084m・最大水深14.6m・面積122haの榛名湖(群馬県高崎市)は、説明するまでもなく、カルデラ湖(正確には火口原湖)である。

【目的】
第15回ワカサギに学ぶ会の2日目(2010年11月18日)午前は、ワカサギ釣り場・鳴沢湖(高崎市)を視察した(※18・※19)。
現地解散後、伊勢崎市在住古田ひろよしさんから、近くの榛名湖を視察しましょうとサプライズが入り、彼の先導で、 榛名湖の江原ボート店に榛名湖漁業協同組合江原 健理事を訪ね、 視察日現在の餌料プランクトン環境を明らかにするため、江原ボート店桟橋においてプランクトンを採取し(fig.13)、 現地でただちにホルマリン固定の上、持ち帰り検鏡観察したので報告する。

【結果】

fig.02 ケンミジンコ属
fig.02 ケンミジンコ属
Cyclopoida sp.
fig.03 ケンミジンコ属
fig.03 ケンミジンコ属
Cyclopoida sp.
fig.04 ヤマトヒゲナガケンミジンコ
fig.04 ヤマトヒゲナガケンミジンコ
Eodiaptomus japonicus
fig.05 ゾウミジンコ
fig.05 ゾウミジンコ
Bosmina longirostris
fig.06 ハネウデワムシの一種
fig.06 ハネウデワムシの一種(卵)
Polyarthra remata
fig.07 カメノコウワムシ(変異型)
fig.07 カメノコウワムシ
(変異型)
Keratella cochlearis var.tecta
fig.08 ツノワムシ
fig.08 ツノワムシ
Schizocerca diversiconis
fig.09 不詳
fig.09 不詳
Unknown
fig.10 不詳
fig.10 不詳
Unknown
fig.11 デトリタス
fig.11 デトリタス Detritus
fig.12 ナガスネユスリカ属
(ベントス)
fig.12 ナガスネユスリカ属(ベントス) Micropsectra sp.
検鏡し撮影した顕微鏡写真を、上記に示す(fig.02-fig.12)、なお背景のグリッドは100μm間隔である。
今回のプランクトン調査結果で優占種と呼べるほどの種は見当たらず、観察した総個体数は少数に留まった。
底生動物(ベントス)の、ハエ目ユスリカ科ナガスネユスリカ属(fig.12)の出現は、ワカサギ餌料生物として注目に値する。
藍藻類のミクロキスティス、アナベナは出現しなかった。
まとめると、ミジンコ類3種・ワムシ類3種・底生動物1種等が確認された。

【考察】
「1927(年)城沼よりの移殖をはじめとする榛名湖のワカサギは、1937(年)より年々諏訪湖と霞ケ浦から卵を移殖放流して現在に至り (現在は主として諏訪湖より)、自然増殖もみられ優れた釣場として発展した。」と、榛名湖のワカサギの黎明を五味禮夫元群馬大学教授が記録している(※01)。

「第15回ワカサギに学ぶ会」で話題提供された群馬県水産試験場品川卓志主任のレジメから、榛名湖のワカサギ成長データを 拾うと、以下の通りであった(※17)。
■2010年09月07日 全長5cm・体長4.3cm・体重(K値)0.9g
「配布レジメ中の表1の全長及び体長の単位mmは誤りでcmが正です(2010年11月29日・私信)」
また、榛名観光ボートの釣果ログからワカサギ釣果を拾うと、以下の通りであった(下段にリンク設定)。
■2010年11月14日  7〜11cm・133尾・水深9m
■2010年11月19日 10〜12cm・ 85尾・水深10m・水温10℃
■2010年11月19日 10〜12cm・105尾・水深10m・水温10℃
上記から、09月07日に全長5cm、11月14日に全長7〜11cm、11月19日に全長10〜12cmに成長していた事実が解かる。

今回の検鏡結果からプランクトンだけを見ると、ワカサギの餌料として量的に貧弱と考える人もいるであろうが、上述した09月上旬から11月中旬にかけての 成長度から、同期間における餌料生物の豊富さと量的潤沢さが示唆される。
一方、底生動物(ベントス)の、ナガスネユスリカ属(fig.12)は、いわゆるプランクトン類に比し、その巨体ぶりは一目瞭然で、 ワカサギ未成魚及び成魚の優良な餌料生物のひとつである。

遊漁者用の『ぐんまつりガイド』(※05)は、群馬県水産試験場国峰一聲場長(当時)の名著であるが、惜しくも絶版になったようで、 後継の類書に同じ出版元の『迷わず行けるぐんまつり場ガイド』(※14)を、よしさん推奨としておこう。
榛名湖の「榛名」の由来を、「ワカサギを意味する春の肴(春菜)からといわれている」とする珍説も 巷間囁かれているが、前述の通り、榛名湖に初めてワカサギが移殖放流されたのは1927(昭和02)年であって、 榛名山・榛名湖・榛名は「大日本帝国陸地測量部明治40年測圖大正6年発行・榛名山 地形図」等により、 それ以前からの呼称が明白であるため、残念ながらワカサギ語源説は当たらない。

田中阿歌麿・上野益三・吉村信吉・宮地傳三郎ら陸水学の先人達が訪れた榛名湖で、遅ればせながら、よしさんも自作プランクトンネットを曳く 機会を得て、しばし感無量であった。

fig.13 プランクトン採取中のよしさん
fig.13 プランクトン採取中のよしさん(撮影:古田ひろよし)

【謝辞】
プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾された江原ボート店・榛名湖漁業協同組合江原 健理事に感謝します。

【参考文献】
(※01)五味禮夫(1971):「榛名の水域に生きるもの」『自然とともに 群馬県湖沼河川の陸水学的研究』,199-204pp,煥乎堂,前橋, \1200
(※02)宮地傳三郎(1972):「ユスリカ」『淡水の動物誌』,2刷,92-93pp,朝日新聞社, \400
(※03)五味禮夫(1980):「榛名湖」『群馬の湖沼』,170-182pp,巻末26-27pp,上毛新聞社出版局,前橋, \1600
(※04)猪木正三(1981):『原生動物図鑑』,講談社,東京, \25800
(※05)国峰一聲(1982):『ぐんまつりガイド』,上毛新聞社,前橋, \900
(※06)津田松苗(1983):「ユスリカ科」『水生昆虫学』,7版,203-209pp,北隆館,東京, \5150
(※07)北川禮澄(1994):『ユスリカ』,川と湖の博物館11,山海堂,東京, \1950
(※08)箕輪真一(1995):『写真集 ぐんまの湖沼と湿原』,煥乎堂,前橋, \2900
(※09)小西浩司・信沢邦宏(1996):「ワカサギ再生産と資源管理-I(赤城大沼、榛名湖、神流湖における再生産状況と増殖方法)」『群馬県水産試験場研究報告』No.2,
(※10)久下敏宏・中野亜木子・薩美賢策(1997):「漁場環境基礎調査-XXII(榛名湖)」『群馬県水産試験場研究報告』No.3,
(※11)久下敏宏・清水延浩・松井資元・薩美賢策(1998):「榛名湖ワカサギ資源調査」『群馬県水産試験場研究報告』No.4,
(※12)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』,東海大学出版会(東京), \18900
(※13)久下敏宏・中野亜木子・吉澤和具(2000):「赤城大沼・榛名湖・神流湖漁場環境調査」『群馬県水産試験場研究報告』No.6,
(※14)上毛新聞社(2000):『迷わず行けるぐんまつり場ガイド』,上毛新聞社,前橋, \1500+税
(※15)久下敏宏・中野亜木子・薩美賢策・清水延浩・垣田誉志史・信沢邦宏(2002):「榛名湖ワカサギ資源調査-II」『群馬県水産試験場研究報告』No.8,
(※16)栗田秀男(2010):「ワカサギの不漁、豊漁の変動とプランクトン群集―榛名湖の場合ー」『日本陸水学会第75回大会2010弘前』一般講演3C-09,
(※17)品川卓志(2010):「簡易的な方法によるワカサギの年齢推定の誤差」『第15回ワカサギに学ぶ会配布レジメ』
(※18)よしさん(2010):「第15回ワカサギに学ぶ会参加報告」http://wakasagi.jpn.org/
(※19)よしさん(2010):「群馬県鳴沢湖のプランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※20)よしさん(2010):「群馬県榛名湖のクロモ」http://wakasagi.jpn.org/
(※21)よしさん(2010):「群馬県榛名湖のセキショウモ」http://wakasagi.jpn.org/

採取:2010年11月18日(木)12:30 天候●雪のち○ 気温:9.7℃ (at13:00 kamisatomi) 水温:7.6℃
水位:満水 水の透明度:約2m 検鏡撮影:2010年11月19日(金)〜27日(土)
発表:2010年11月29日(月) 前牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
榛名湖ワカサギ釣り情報(水月亭・榛名観光ボート)

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