拾得した水生植物の全景を最上段に示す(fig.01)。
葉は、線形でリボン状(テープ状)、ねじれはなく、色は緑黄色で軟質、長さは、最大96cmから、82cm・55cmであった。
葉の幅は、5.0mmから3.5mmで、先端はさらに細くなり、尖らずに丸まる(fig.02)。
平行脈があり、葉縁に微細な鋸歯がある(fig.03)。
黒色に見える針状の細胞が葉の全域で、中央脈から葉縁に向ってランダムに分布する(fig.04)。
拾得した水生植物は、拾得地と観察結果から、『日本水生植物図鑑』(※02)により、
沈水性多年草の一種、トチカガミ科のセキショウモ Vallisneria natans Hara. と同定した。
【考察】
拾得したセキショウモは、護岸の石積みに漂着したもので、
時節柄(花期は終わっているため)花はなく、花と花粉は未観察で、根・地下茎を含めた株も拾得できなかった。
葉の長さは(途中から切れているにもかかわらず)最大96cmを計測したため、水深のある榛名湖の
セキショウモは、自然状態において更に長大と推定される。
別称はヘラモ・イトモの他、地元でニラモと呼ばれている。
榛名湖の水生植物は、水深3〜4m位までの沿岸部に見られ、魚類の良い産卵・摂餌の場所になっており(※03)、
魚族繁殖を願う釣り人には、心強く大切な存在である。
榛名湖のプランクトンと、クロモについては、別途報告した(※07〜※08)。
【Rev.01 追記】
1578(万暦06)年に成立したとされる、『本草綱目』(※09)を、日本語に訳し、注を書入れた『頭註国訳本草綱目』(※10)の、
草部の苦草に、和名せきしやうも・学名 Vallisneria spairalis,L. ・科名とちかがみ科が記載され、
集解に「時珍曰く、湖や澤の中に生え、長さ二三尺になり、形状は茅、蒲の類のやうなものである。」と見える。
主治に、「婦人の白帯には煎湯を服す。又、乾茶を嗜好して巳まぬために面黄となり、無力となつたものに主効があり、
末にし、脂麻と炒り和して時に拘らず乾いたまま噛む(時珍)」と出る。
『頭註国訳本草綱目』(※10)の第六冊(草部)等の考定をされた牧野富太郎博士の頭註に「牧野曰ク、
集解ノ文極メテ簡単デ果シテせきしやうもデアルカ否カハ能クハ判ラヌ、タダ此ニハ蘭山(小野・よしさん注)ニ従フテ
姑ク其品ト為シテ置クノミデアル。」とある。
『頭註国訳本草綱目』の第十三冊拾遺(※11)の「苦草」に、「綱目の水草類に苦草を記載して”湖澤中に生じ、長さ二三尺、
形状は茅、蒲の類のやうだ”といひ、主治は、白帯、又、乾茶を嗜んで顔色の黄なるを治すと二種の病を挙げたが、
その気味、薬性はまた記載を欠いてゐる。此に張■(王編に路)玉の本經逢原に依つて補つて置く。苦し、温にして
毒なし。香は竄して足の厥陰、肝の經に入り、気中の血を理す。
産後に煎じて服すれば、能く悪露(をろ)を遂ふ。ただ味の苦が胃気を伐(そこな)ひ、竄して脳を傷めるので、
膏梁の美食に慣れた者や、柔脆な食物に慣れたものがこれを服すると、減食し、瀉を作(な)すものである。
過服すれば晩年に多く頭風を患ふ。昔の人は産児制限の目的で、苗子三銭を月經後に麹淋酒(きくりんしゅ)で
服したといふから、受胎せしめず、血を傷めるの性が想像される。」と、中国浙江省錢塘の原著者恕軒逍学敏は記している。
牧野富太郎博士は後年『学生版牧野日本植物図鑑』(※12)の「せきしょうも」に、植物学者らしい精密な植物図と
説明を発表され、よしさんも愛読している。
セキショウモは、中国大陸にも古くから分布し、東洋医学・漢方分野の薬用植物のひとつとして利用されてきた。
【謝辞】
榛名湖視察に便宜を与えて頂いた、伊勢崎市在住古田ひろよしさんに感謝します。
【参考文献】
(※01)矢野 左・石戸 忠(1973):「セキショウモ」.『原色植物検索図鑑』.14版,図鑑の北隆館,東京,94pp,\3000.
(※02)大滝末男・石戸 忠(1980):「セキショウモ」.『日本水生植物図鑑』.北隆館,東京,180-181pp.
(※03)五味禮夫(1980):「榛名湖」『群馬の湖沼』,170-182pp,巻末26-27pp,上毛新聞社出版局,前橋, \1600
(※04)角野康郎(1989):日本の水草 その自然史10「生活史と種内変異」.『日本の生物』3(5),may,1989,55-60pp.
(※05)よしさん(2010):「第15回ワカサギに学ぶ会参加報告」http://wakasagi.jpn.org/
(※06)よしさん(2010):「群馬県鳴沢湖のプランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※07)よしさん(2010):「群馬県榛名湖のプランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2010):「群馬県榛名湖のクロモ」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)原著:李 時珍(1653,承応癸巳02年):『本草綱目』和本,武林錢衛蔵版,外題:新刻本草綱目,見返し:重訂本草綱目,
(※10)原著:李 時珍,監修校註:白井光太郎,訳:鈴木眞海(1930):「苦草」『頭註国訳本草綱目』第6冊,487pp,春陽堂(東京市),非売品,
本文は1637,寛永丁丑14年和刻本(京都)・図画は1653,承応癸巳02年和刻本(野田弥次右衞門版)を底本とする
(※11)同上(1932):「苦草」『頭註国訳本草綱目』第13冊,283-284pp,
(※12)牧野富太郎(1988):「せきしょうも」『学生版牧野日本植物図鑑』24版,367pp,北隆館,東京,\1854.
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