【千葉県雄蛇ケ池のフクロワムシが捕食したもの】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※05)。
冬期の雄蛇ケ池において、魚類餌料プランクトン調査を実施したところ(※12)、フクロワムシ Asplanchna priodonta を多数観察したので報告する。
ホルマリン固定による体形収縮の影響の少なかった個体(fig.01)を基準に、テマリワムシを捕食したと見られる個体(fig.02)、
フクロワムシを捕食したと見られる個体(fig.03)、さらには、ディフルギア属の一種(根足虫)(※11)を捕食したと見られる個体(fig.04)を
複数観察した。
肉食性プランクトンであるフクロワムシが、フクロワムシを捕食したと見られる事例は、五味禮夫『群馬の湖沼』(巻末資料16pp)(※03)等により知られており、
よしさんも、千葉県亀山湖における事例を報告している(※09・※10)。
しかし古くは、浅野彦太郎『分類水産動物図説』にフクロワムシは、「卵巣は単一にして胎生なり。」(215pp)と記載され(※01)、
翌年発行の日本動物研究学会編『新集全動物図鑑』も「卵巣は単一にして胎生なり。」(735pp)と同一文(※02)、
また、内田 亨監修『学生版日本動物図鑑』に、「卵胎生であって、母虫内にふ化した幼虫がみられる。」(341pp)との記述がある(※04)。
写真(fig.03)のフクロワムシ中のフクロワムシが、「幼虫」であるなら胎生の観察記録であり、「成体」であるなら捕食の観察記録となろうが、
今のところ定かではない。
テマリワムシやディフルギア属の一種を「捕食」ではなく「誤飲」したと考える人もあろうが、
茨城県中沼における事例(※08)では、観察したフクロワムシのほとんどの個体中にディフルギア属の一種が認められたため、
偶然の「誤飲」とは考えにくい状況である。
【謝辞】
プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたボートハウスツカモトに感謝します。
【参考文献】
(※01)浅野彦太郎(1933):フクロワムシ『分類水産動物図説』215pp,太陽堂,東京, \9円50銭
(※02)日本動物研究学会編(1934):フクロワムシ『新集全動物図鑑』735pp,泰明堂,東京, \2円50銭
(※03)五味禮夫(1980):フクロワムシ『群馬の湖沼』,巻末資料16pp,上毛新聞社出版局,前橋, \1600
(※04)内田 亨監修(1983):『学生版日本動物図鑑』新版再版,341pp,北隆館,東京, \1854
(※05)よしさん(1996〜2010):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※06)鈴木 實(1999):Asplanchna『車輪虫類同定学』39pp,三省堂(東京), \3800+税
(※07)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』1-551pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※08)よしさん(2006):「中沼の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2010):「亀山湖(F.コテージつばきもと桟橋)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2010):「フクロワムシを喰ったフクロワムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)よしさん(2010):「千葉県笹川湖のディフルギア属」http://wakasagi.jpn.org/
(※12)よしさん(2010):「師走の雄蛇ケ池における魚類餌料プランクトン調査報告(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※13)よしさん(2010):「師走の雄蛇ケ池における藍藻類観察報告」http://wakasagi.jpn.org/
(※14)よしさん(2010):「雄蛇ケ池前水路のコカナダモ」http://wakasagi.jpn.org/
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