スポンサードなし、よしさんの自費研究成果です

ワカサギふ化放流ノート
千葉県丑ケ池のカメガタツボワムシ
Brachionus urceolaris of the Ushiga-ike pond.
【千葉県丑ケ池のカメガタツボワムシ】
丑ケ池は、千葉県東金市にある小規模な潅漑用溜池である(※02)。
漁業権設定のなされていない丑ケ池では、法令に基づく魚類増殖義務がないこともあり、 魚類資源管理という概念は浸透しておらず、ましてや、魚類餌料としてのプランクトン調査は、過去に見当たらない。
また、プランクトン調査結果は、いつでも誰でも、特別な許可手続きなしに閲覧できる形で、公的機関等から インターネット上に公表されていないようだ。
よしさんは、2011年07月17日(日)、夏季の魚類餌料プランクトン環境を明らかにすることを目的に、 丑ケ池でプランクトンを採取し、現地でただちにホルマリン固定の上、持ち帰り検鏡観察した。
本報では、カメガタツボワムシについて報告する。
fig.01 カメガタツボワムシ
fig.01 カメガタツボワムシ(第1個体)
B.urceolaris sp.
fig.02 カメガタツボワムシ
fig.02 カメガタツボワムシ(同左)
B.urceolaris sp.
fig.03 カメガタツボワムシ
fig.03 カメガタツボワムシ(第2個体)
B.urceolaris sp.
fig.04 カメガタツボワムシ
fig.04 カメガタツボワムシ(第1個体)
B.urceolaris sp.
検鏡し撮影した顕微鏡写真(fig.01-fig.04)を、上記に示す、なお背景のグリッドは100μm間隔である。
観察したワムシは、初めて見る種に思えたから、手元の資料で同定を試みた。
先ず、『日本淡水動物プランクトン検索図説』(※05)のカメガタツボワムシの基本型と変異型に示された、図31-34(206-207pp,) を良く見て比較するが、どれも微妙に相違している。
同ページに、鈴木博士が埼玉県の別所沼から発見した B.urceolaris f. urawensis SUDZUKI,1965 の記述があるが、 図は省略されており、比較はできない。
次に、ワムシ分類同定の世界的権威・鈴木博士の『車輪虫類同定学』(※04)の Plate92の図10(109pp,)、つまり B.urceolaris urawensis Sudzuki 1964(Hydrobiologia23:pl.4,figs.12,13)、他を見て比較するが、 図10に描かれるほど下部のふくらむ甕型でもない。
さらに、『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』(※06)の図版45-46(106-109pp,)とも比較するが、わずかに相違があり、 どの変異型かの決め手に欠けるようだ。
しかし、同書図版46の図6(SUDZUKI)が最も似ており、変異も著しいとされることから、B.urceolaris とした。

カメガタツボワムシは、全国の湖沼に広く分布する普通種で、生息水域の有機汚濁の指標性は、 β-ms (β-中腐水性;少しよごれた水)〜 α-ms (α-中腐水性;きたない水)と、田中博士は記しており(※06)、 よしさんは、2008年07月15日に茨城県牛久沼(三日月橋下)で観察し報告している(※07)。

青森県恐山の宇曽利山湖は、強酸性の湖水で知られる(※03)。
湖沼学者吉村信吉は、1937年初版の『湖沼学』(※01)に、 「恐山湖はPH=3.1〜3.4と云ふ強酸性を呈するので、棲息する生物の種属は著しく極限されてゐるが、 前記 Leptodictyum を始め、枝角類の Simocephalus vetulus, 輪虫類 Brachionus urceolaris や魚類のウグヒ Tribolondon hakuensis が多数繁殖してゐる。」(301pp)と記述している。
学名 Simocephalus vetulus は和名でオカメミジンコを、 Brachionus urceolaris は和名でカメガタツボワムシを 指すものであり、カメガタツボワムシの基本型であるか変種かは不詳ながら、 生息水域の指標に「酸性水域にも生息する」と加える必要があろう。
丑ケ池の水質環境は(他の釣り場に比べ)透視度もやや良く、水生植物もあり、釣り人の評価は低くない。
別途報告した丑ケ池の藍藻類御三家の存在(※10)と併せ考察すると、この有機汚濁の指標は、現在の丑ケ池の状態と 合致していると言える。

【参考文献(架蔵書)】
(※01)吉村信吉(1976):恐山湖『湖沼学』増補版,301pp,生産技術センター(東京), \5500+税
(※02)よしさん(1996〜2011):丑ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※03)よしさん(1996〜2011):宇曽利山湖「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※04)鈴木 實(1999):『車輪虫類同定学』1-151pp,三省堂(東京), \3800+税
(※05)水野寿彦・高橋永治(2000):「カメガタツボワムシ」『日本淡水動物プランクトン検索図説』206-207pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※06)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』viii+584pp,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※07)よしさん(2008):「牛久沼(三日月橋下)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池の魚類餌料プランクトン(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池のカマガタツボワムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池の藍藻類観察報告(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/

採取:2011年07月17日(日)13:00大池にて 天候○ 気温:34.0℃ (at12:00 ienoko) 水温:34.4℃
水位:1.0m減水(EL22.3m) 水の透明度:不良(マッディー) 検鏡撮影:2011年07月21日(木)〜28日(木)
発表:2011年07月31日(日)前牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0022 丑ケ池  「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0085 宇曽利山湖

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