検鏡し撮影した顕微鏡写真(fig.01-fig.04)を、上記に示す、なお背景のグリッドは100μm間隔である。
観察したワムシは、初めて見る種に思えたから、手元の資料で同定を試みた。
先ず、『日本淡水動物プランクトン検索図説』(※05)のカメガタツボワムシの基本型と変異型に示された、図31-34(206-207pp,)
を良く見て比較するが、どれも微妙に相違している。
同ページに、鈴木博士が埼玉県の別所沼から発見した B.urceolaris f. urawensis SUDZUKI,1965 の記述があるが、
図は省略されており、比較はできない。
次に、ワムシ分類同定の世界的権威・鈴木博士の『車輪虫類同定学』(※04)の Plate92の図10(109pp,)、つまり
B.urceolaris urawensis Sudzuki 1964(Hydrobiologia23:pl.4,figs.12,13)、他を見て比較するが、
図10に描かれるほど下部のふくらむ甕型でもない。
さらに、『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』(※06)の図版45-46(106-109pp,)とも比較するが、わずかに相違があり、
どの変異型かの決め手に欠けるようだ。
しかし、同書図版46の図6(SUDZUKI)が最も似ており、変異も著しいとされることから、B.urceolaris とした。
カメガタツボワムシは、全国の湖沼に広く分布する普通種で、生息水域の有機汚濁の指標性は、
β-ms (β-中腐水性;少しよごれた水)〜 α-ms (α-中腐水性;きたない水)と、田中博士は記しており(※06)、
よしさんは、2008年07月15日に茨城県牛久沼(三日月橋下)で観察し報告している(※07)。
青森県恐山の宇曽利山湖は、強酸性の湖水で知られる(※03)。
湖沼学者吉村信吉は、1937年初版の『湖沼学』(※01)に、
「恐山湖はPH=3.1〜3.4と云ふ強酸性を呈するので、棲息する生物の種属は著しく極限されてゐるが、
前記 Leptodictyum を始め、枝角類の Simocephalus vetulus, 輪虫類 Brachionus urceolaris や魚類のウグヒ
Tribolondon hakuensis が多数繁殖してゐる。」(301pp)と記述している。
学名 Simocephalus vetulus は和名でオカメミジンコを、 Brachionus urceolaris は和名でカメガタツボワムシを
指すものであり、カメガタツボワムシの基本型であるか変種かは不詳ながら、
生息水域の指標に「酸性水域にも生息する」と加える必要があろう。
丑ケ池の水質環境は(他の釣り場に比べ)透視度もやや良く、水生植物もあり、釣り人の評価は低くない。
別途報告した丑ケ池の藍藻類御三家の存在(※10)と併せ考察すると、この有機汚濁の指標は、現在の丑ケ池の状態と
合致していると言える。
【参考文献(架蔵書)】
(※01)吉村信吉(1976):恐山湖『湖沼学』増補版,301pp,生産技術センター(東京), \5500+税
(※02)よしさん(1996〜2011):丑ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※03)よしさん(1996〜2011):宇曽利山湖「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※04)鈴木 實(1999):『車輪虫類同定学』1-151pp,三省堂(東京), \3800+税
(※05)水野寿彦・高橋永治(2000):「カメガタツボワムシ」『日本淡水動物プランクトン検索図説』206-207pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※06)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』viii+584pp,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※07)よしさん(2008):「牛久沼(三日月橋下)の動物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池の魚類餌料プランクトン(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池のカマガタツボワムシ」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2011):「千葉県丑ケ池の藍藻類観察報告(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
|