検鏡し撮影した同一個体の顕微鏡写真を上記に示す(fig.01-fig.04)、なお背景のグリッドは100μm間隔である。
観察した原生動物は、初めて見る種であったが、固着性の繊毛虫であると見当がついた。
ロリカ Lorica と呼ばれる透明な容器内に1匹の虫体が入っており(fig.01-fig.04)、虫体は約10〜20μmの短い柄でロリカ底部に接続固定している(fig.01-fig.02)。
ロリカの形状は、先端が狭く下方が大きく明瞭に一度膨れてから基部が閉じる、いわゆる壷型(チューリップ型)ではなく、
先端と下方が約50〜60μm程度と同じ径に近い円柱型(試験管型)で、先端の開口部周囲に繊毛を有し、全長は約220〜230μmである(fig.01-fig.04)。
虫体は、ロリカ内部を伸縮し、瞬発的に縮んだ状態で約110μm(fig.03)、じわじわと伸びた状態で約160μmを観察したが、虫体がロリカ先端を越え
外部に伸びる場面は観察できなかった。
【考察】
観察結果を踏まえ、分類と名を知るべく、架蔵書及びインターネット上に公表されている写真・資料文献で同定を試みた。
『原生動物図鑑』(※01)の縁毛類 PERITRICHIA 第1亜目定着類 SESSILINA に幾分似たものが4〜5種見られた。
しかし、例えば Cothurnia oblonga とはロリカ形状・虫体の大きさ・柄の状態が相違し(同書732pp)、
Platycola truncta とはロリカ形状・虫体の大きさ・柄の有無が相違し(同書738pp)、
Pyxicola afflnis とはロリカ形状・虫体の大きさ・柄の長さが相違し(同書739pp)、
Vaginicola ingenita とはロリカ形状・虫体の大きさ・柄の有無が相違(同書742pp)している。
『日本淡水動物プランクトン検索図説』(※03)は、繊毛虫門に縁毛目類の記載を省略している(同書304-323pp)。
『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』(※04)は、繊毛虫類に周毛類を扱うが、本件個体と類似する記載がない。
『下水処理と原生動物』(※05)の「図34 縁毛目類の代表的な概形図」(同書81pp)に示された
4.Thuricola sp. とはロリカ形状が似るものの虫体の大きさが相違し、
「代表的属種の簡易解説」(同書133pp)に示された
Thuricola kellicottiana とは虫体の数と大きさ・虫体が殻より大きい点が相違している。
次に、インターネット上に公開されている「原生生物情報サーバ」(※06)を見ると、
貧膜口綱 Oligohymenophorea 周毛亜綱 Peritrichia:Sessilida 固着目 (ツリガネムシ目)の、
Vaginicola gigantea に類似しているが、例示された写真とは虫体の数が相違するため、
本件個体は Vaginicola sp. と同定した。
同日調査した「千葉県乾草沼の魚類餌料プランクトン」及び「千葉県乾草沼の原生動物ツリガネムシ」並びに
「千葉県乾草沼のマツモ」については、別途報告した(※07〜※09)。
【参考文献(架蔵書)】
(※01)猪木正三(1981):縁毛類『原生動物図鑑』,729-745pp,講談社,東京, \25800
(※02)よしさん(1996〜2011):乾草沼「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※03)水野寿彦・高橋永治(2000):『日本淡水動物プランクトン検索図説』210-211pp,東海大学出版会(東京), \18900
(※04)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』viii+584pp,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※05)盛下 勇(2004):『下水処理と原生動物』初版第1刷,151pp,山海堂(東京), \1900+税
(※06)原生生物情報サーバ(1995-2011):Vaginicola sp.「原生生物情報サーバ」
http://protist.i.hosei.ac.jp/PDB/Images/Protista/Ciliophora.html
(※07)よしさん(2011):「千葉県乾草沼の魚類餌料プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/
(※08)よしさん(2011):「千葉県乾草沼の原生動物ツリガネムシ(動画)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2011):「千葉県乾草沼のマツモ」http://wakasagi.jpn.org/
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