fig.00 雄蛇ケ池(松田谷津北岸)
【概要】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※01)。
雄蛇ケ池で、繁茂した水生植物の除去を目的とし、2006年早春に、草食魚ソウギョが放流された。
前報(※08)では、はじめに水生植物の激減経緯をまとめて示し、次に本題のソウギョがクヌギを食べている観察事例を
紹介し、さらに古典籍を引いて、クヌギとソウギョと人間とのかかわりを探った上で、考察を加えた。
また、近未来に起り得る仮説として、「ソウギョが立ち泳ぎ姿勢で水面から伸び上がり、頭部を出し、水上にオーバーハングする植物を食む姿さえ、やがて観察・撮影されるであろう。」と結んだ(※08)。
本報は、その仮説が現実となり、観察され撮影されたことを紹介し、次に現地調査に基づき該当樹木の種を同定し、さらに隣接した水辺の植生分布(配列)
を示した上で、ソウギョの食性嗜好について、いくつかの考察を加える。
【01 ソウギョが木の葉を食べている観察事例】
fig.01-02 ソウギョが立ち泳ぎ姿勢で水面から伸び上がり、頭部を出し、水上にオーバーハングする植物を食む姿
(Thanks photo A-B, Mr.Tsukaji, yoshisan.)
雄蛇ケ池を釣りと自然観察のホームグランドとし、永年にわたり観察を続けている、つかじー氏(ハンドルネーム)
より、同氏主宰ブログ記事の一部転載・写真借用につき、快諾を得たので、2012年05月10日の原文(の一部)を紹介しよう。
松田谷津。しばらくすると雲行きが怪しくなり、雷雨になった。
やがて風が強まり、まるで豪雨。落雷がハンパない。 バラバラと雹まで降ってくるしまつ。 その後、1時間も経っただろうか、雨があがると22度あった気温が14度。妙に寒い。
以前に、水草がなくなって飢えたソウギョが空気中の葉を食べているとお伝えしましたが、そのシーンがこれです。
ローライトでソウギョが活発に動いてました。 こちらはニンジャのように気配を殺し撮影。
ソウギョの頭の右側に、直前までそこに顔を出していたもう一匹が沈んだ跡の波紋が見えてます。
1枚目と2枚目はたぶん別個体。5〜6匹ほどいるようでした。
80cm〜1mの巨体が水面から30cm以上も顔を出して立ち泳ぎのようにして食ってました。
にゅ〜と出ては引っ込み、またにゅ〜っと。次にどこから出てくるか読みつつ頭が出てきた瞬間に撮影。
読みが外れると2枚目のようになりますw。
写真を見てわかるように、豪雨直後で水位が満水を超えているのに、この木の葉や枝は水面すれすれまで届いていません。
それは水面付近の木の葉や枝をソウギョが食べてしまっている証拠と言えます。
ただし、水深が浅い場所ではこれは無理。1m近い巨体がこれをするにはある程度の水深が必要と思われます。
【原記事はこちらです 雄蛇ヶ池の話 〜蛇の道は蛇〜 By つかじー】
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【02 ソウギョが食べていた木の葉と、隣接した水辺の植生分布(配列)】
fig.03 クヌギ No.5(ソウギョが葉を食べていたのは、この木)
table.01 雄蛇ケ池・松田谷津北岸の水辺の植生分布(配列)
2012年05月17日(木)、雄蛇ケ池の松田谷津北岸で、該当樹木の種を同定し、隣接した水辺の植生分布(配列)を調査したところ、
ソウギョが食べていたのは、東西に5本並んだクヌギの東端の1本(クヌギ No.5)と判明した(fig.03・05・06)。
また、隣接した水辺の植生分布(配列)は上(table.01) に示し、現地の様子は下(fig.04)に示す。
fig.04 隣接した水辺の植生
ソウギョが食べていたクヌギの葉(fig.05-06)、及び隣接しクヌギ以上に水面に垂れ下がるソメイヨシノの葉(fig.04・07)、並びに
水際から水中(水面下)にまで広がるハンゲショウの様子(fig.08)を以下に示す。
fig.05-06 クヌギの葉
fig.07 ソメイヨシノの葉、fig.08 ハンゲショウ(群落)
★調査日:2012年05月17日10:30
★天 候:○
★水 位:満水
★気 温:24.0℃
★水 温:22.2℃
【03 考察 ソウギョの食性嗜好について】
雄蛇ケ池という閉鎖水体に放たれた中国原産草食魚ソウギョは、繁茂し被植面積の大分を占めていた、オオカナダモを喰い、
ヒシモを喰い、ヨシを喰い、ハスを喰い(その間、糞塊を排出し、藍藻類の異常増殖を促し、アオコ現象を発生させつつ)、水生植物は
ほとんど壊滅状態に追いやられた(※02〜05)。
飢餓環境のソウギョは、水中に現に存在するものに留まらず、
「ソウギョが、水面に落下した、風媒花クヌギの新鮮な雄花を食べていた」珍しい事例も2011年に観察されている(前報※08)。
「松田谷津北岸」の、クヌギ(No.5)〜スダジイ〜クロマツ〜ソメイヨシノの根元は、池の一部が入組んで深く、その上空は樹冠に覆われ、暗い(fig.04)。
05月10日の雄蛇ケ池は満水に加え、雷鳴と豪雨により増水し、水面は上昇していた(つまり水面と木の葉との距離が近くなっていた)。
大型のソウギョは、日射量の減少と気圧低下を感じ、降雨による水面上昇を予測し、餌料となる樹冠の下に群れを形成し機会を待っていたのではなかろうか。
しかし、クヌギ(No.5)よりもさらに低く水面近くまで木の葉を伸ばしていたソメイヨシノに、著しい食害痕は見られないようで、
クヌギ(No.5)に隣接するスダジイ〜クロマツにも、大きな食害痕が見当たらない。
また、水中で水平姿勢のまま摂餌可能と思われ、構成組織もクヌギより柔らかいと考えられるハンゲショウ群落では、よしさんの調査範囲において、顕著な食害痕は見られなかった(fig.08)。
これらの調査結果を踏まえ、「ソウギョが、水面に落下した、風媒花クヌギの新鮮な雄花を食べていた」前回事例(前報※08)を勘案すると、
クヌギ・スダジイ・クロマツ・ソメイヨシノ・ハンゲショウに対するソウギョの食性嗜好は、クヌギが優るものと考察される。
ただし、クヌギ(No.5)に隣接するスダジイは、クヌギと同じブナ目ブナ科の樹木でありながら(スダジイの葉はクヌギの葉よりも小型で若干堅いようであるが)、
なぜ、ソウギョの嗜好上位にならぬのかは、今後、明かされる課題のひとつとして残る。
fig.09 クヌギの水中根 Quercus acutissima aquatic root(水中撮影)
クヌギ(No.5)の根本を観察すると、幾つかに分かれた通常の地中根に加え、水中部の根本から細く密生した水中根が発達していることが解かる(fig.09)。
水深10mまで許容仕様の愛用デジタルカメラを、水深10cmに沈め、水中根を撮影したところ、
古い水中根は黒褐色で、新しい水中根は褐色〜白色を呈していた(fig.09)。
ソウギョが喰い尽くし、雄蛇ケ池の水中に水生植物がなくなり、極端な飢餓環境に移行しつつある特殊条件下において、
クヌギの新鮮な雄花や新しい葉(枝先の若葉)を好むソウギョは、クヌギの水中根をも食べている可能性がある。
なぜなら、クヌギの水中根は、クヌギの新しい葉(枝先の若葉)を立ち泳ぎ姿勢で喰うよりも、楽な努力量(水中で水平姿勢のまま)で
摂餌可能だからである。
【謝辞】
★「ソウギョが木の葉を食べている」観察事例を報告頂き、写真2点の転載も快諾くださった、つかじーさんに感謝します。
【参考文献】よしさん架蔵書
(※01)よしさん(1996〜2012):「雄蛇ケ池」『ザ・レイクチャンプ』http://lake-champ.com
(※02)つかじー(2006):ソウギョ放流について『雄蛇ケ池バスフィッシングガイド』http://ojyagaike.web.infoseek.co.jp/index.html
(※03)つかじー(2007):縮小する葦原(2007.5)『雄蛇ケ池バスフィッシングガイド』http://ojyagaike.web.infoseek.co.jp/index.html
(※04)つかじー(2008):衰退する蓮群落(2008.6)『雄蛇ケ池バスフィッシングガイド』http://ojyagaike.web.infoseek.co.jp/index.html
(※05)よしさん(2006〜2010):「ふ化放流ノート」『亀山湖牛久沼ワカサギ情報』http://wakasagi.jpn.org/
(※06)池田健蔵・遠藤 博(1997):「クヌギ」『原色新樹木検索図鑑』離弁花編,第2部14pp,初版,北隆館(東京),\4800+税
(※07)新村 出(1979):「くぬぎ」『広辞苑』第二版補訂版第四刷,638pp,岩波書店(東京),\4800,
(※08)よしさん(2011):「ソウギョはクヌギも食べている」『亀山湖牛久沼ワカサギ情報』http://wakasagi.jpn.org/
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