亀山湖・牛久沼は首都圏近郊のワカサギ釣り場をめざします

ワカサギふ化放流ノート
千葉県雄蛇ケ池における藍藻類の変遷(2006〜2012)
The change (2006-2012) of the blue-green alga in the Onjyaga-ike pond, Chiba.
【経緯と目的】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※05)。
千葉県雄蛇ケ池では、繁茂した水生植物の除去を目的に、2006年早春に草食魚ソウギョが放流された。
2007年に水生植物の減少が顕著になり、2007年秋季までに、水生植物帯の約70%程度が消滅し、生態系に最大級の影響を与えた。
水生植物はソウギョに食害され、水中に排出されたソウギョの糞塊は微生物による分解変質を経て、植物プランクトンに利用されやすい中間体となり、 水面被植面積縮小による高水温と底泥巻上げを併せ、ミクロキスティス・アナベナ・オシラトリア等の藍藻類大繁殖を助長し、 重度で複合したアオコ現象を毎年反復し招来させていることが、次第に明らかになってきた(※08〜※25)。
よしさんは、2006年夏季から2012年夏季まで、雄蛇ケ池のアオコ現象の原因藍藻類を明らかにすることを目的に、 調査を継続実施・報告してきた(※08〜※25)が、本稿では先ず、藍藻類の変遷状況を一覧的に把握し(table.01)、次いで 藍藻類の変遷に関する一二の知見を述べる。

種/年月日 2006年
08月31日
2007年
08月12日
2008年
07月13日
2008年
09月10日
2009年
07月19日
2009年
11月16日
2010年
07月04日
2010年
12月08日
2011年
07月17日
2011年
12月05日
2012年
05月17日
2012年
07月15日
●Microcystis Aeruginosa ●●
●Microcystis Wesenbergii     ●●  
●Microcystis Ichthyoblabe        
●Microcystis viridis       ●●            
●Microcystis Novacekii                  
●Anabaena Macrospora               ●●
●Anabaena Spiroides var.crassa              
●Anabaena flos-aquae           ●●            
●Anabaena.sp                      
●Oscillatoria Kawamurae                      
table.01 千葉県雄蛇ケ池における藍藻類の変遷(2006〜2012)
●印は出現、●●印は優占種を示す

【結果】
2006年早春にソウギョが放流され、直後の2006年夏季から2012年夏季までの、7年間に亘る 藍藻類継続調査結果(※08〜※23)を踏まえ、「千葉県雄蛇ケ池における藍藻類の変遷(2006〜2012)」を作成し、上に示す(table.01)。

さらに、雄蛇ケ池における代表的な藍藻類を、以下に示す(fig.01-06)。
fig.01 ミクロキスティス
fig.01 ミクロキスティス
エルギノーザ
Microcystis Aeruginosa
fig.02 ミクロキスティス
fig.02 ミクロキスティス
ベーゼンベルギー
Microcystis Wesenbergii
fig.03 ミクロキスティス
fig.03 ミクロキスティス
イクチオブラーベ
Microcystis Ichthyoblabe
fig.04 ミクロキスティス
fig.04 ミクロキスティス
ビリディス
Microcystis viridis
fig.05 アナベナ
fig.05 アナベナ
スピロイデス
Anabaena Spiroides var.crassa
fig.06 アナベナ
fig.06 アナベナの一種
Anabaena.sp


【考察01 アオコ現象の主因となる藍藻類の変遷の周期性】
例年夏季の藍藻類は、多種複合型で発生し(2007〜2012、table.01)、どの種も平均的に繁殖する夏と(2007・2009・2011、table.01)、 ある種のみが異常繁殖する夏が(2006・2008・2010・2012、table.01)、周期性を持って隔年交互に発生する特徴が明らかになった。
また同時に、数年間連続し優占種として君臨する強烈な種はないものの、異常繁殖し優占する種は、隔年ごとに交代することも、明らかになった(table.01)。
しかし、隔年交互に発生し、隔年ごとに交代する原因は不明で、雄蛇ケ池における藍藻類のさらなる継続調査が求められる。

2006年に初出現した Microcystis Aeruginosa は、一定レベルを保ちながら、夏季・冬季を通じた全期間(2006〜2012年)観察されており、 次いで出現頻度の高い種は、Microcystis Wesenbergii 及び Microcystis Ichthyoblabe であった(table.01)。


【考察02 ソウギョ放流と藍藻類の異常繁殖の相関】
ソウギョ放流と藍藻類の異常繁殖について、現象の時系列を以下に示す。
●2005年までの雄蛇ケ池は、オオカナダモ・ヒシモ・ハス・ヨシ等の水生植物が繁茂した、 濁りのない「クリアー」な水色の好釣り場であった。
●現場関係者の要望により、2006年早春に東金市がソウギョ(未成魚200尾)を放流し 「藻の繁茂防止を目的にソウギョを放流しています」と看板を設置したことは記憶に新しい。
●ところが「藻だけ」のはずが案に相違し、「藻」(狭義のオオカナダモ・ヒシモ)に限らず、ヨシ・ハス等の水生植物もソウギョに喰われ、 皿池状の池底は「丸坊主」状態になった(2006〜2008年)。
●ソウギョに喰われた水生植物は、糞塊となって池中に拡散した(2006〜2012年)。
●ソウギョによる水面の被植激減が、夏季全層一律水温上昇を加速した(2006〜2012年)。
●底泥中に蓄積された既存栄養塩及びソウギョの糞塊は、高水温により再溶解・分解が促進され、藍藻類の異常繁殖に加担した(2006〜2012年)。
●ソウギョは、草本類に留まらず、木本類のクヌギ(雄花及び新葉)も喰うようになった(2011〜2012年)。

現象の時系列と、上に示した「千葉県雄蛇ケ池における藍藻類の変遷(2006〜2012)」(table.01)を併せ見ると、 雄蛇ケ池の水生植物はソウギョに食害されて糞塊となり、ソウギョの糞塊は藍藻類異常繁殖の主たるトリガーになり、 ソウギョ放流と藍藻類の異常繁殖(アオコ現象)は相関関係にあると指摘できよう。
「ソウギョに藻を喰わせて解決の図式」を描いた、ソウギョ放流推進派の短絡的目論みは崩れ、 雄蛇ケ池を取り巻く生態系を壊滅的に破壊しただけに留まらず、雄蛇ケ池を藍藻類に起因する既知と未知の 水溶性毒素の一大供給源と化したようで誠に残念である。


【謝辞】
雄蛇ケ池を観察し旬の情報を提供くださる「雄蛇ヶ池バスフィッシングガイド」主宰つかじーさんに感謝します。

【参考文献】(よしさん架蔵書)
(※01)生嶋 功(1991):『水の華の発生機構とその制御』第2刷,183pp,東海大学出版会,\1648
(※02)朱 浩然(1991):『中国淡水藻志 第二巻 色球藻綱』第1版,vi+161pp,科学出版社(北京),13.00元
(※03)藤田善彦・大城 香(1993):『ラン藻という生きもの』第2刷,134pp,東京大学出版会,\1648
(※04)渡辺真利代・原田健一・藤木博太(1994):『アオコ−その出現と毒素−』257pp,東京大学出版会,\4738
(※05)よしさん(1996〜2012):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※06)田中正明(2002):Anabaena macrospora 『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』260-261pp,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※07)渡辺眞之(2007):『日本アオコ大図鑑』159pp,誠文堂新光社,\6000+税
(※08)よしさん(2006):「水の華シロコ現象とは(亀山湖における2005年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2006):「アオコとは(雄蛇ケ池における2006年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2007):「アオコとは(雄蛇ケ池における2007年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)よしさん(2008):「雄蛇ケ池のアオコ現象と原因藍藻類の変遷(2006〜2008年)」http://wakasagi.jpn.org/
(※12)よしさん(2008):「見た目アオコ指標と指標写真」http://wakasagi.jpn.org/
(※13)よしさん(2008):「雄蛇ケ池におけるアオコ現象と想定される毒性」http://wakasagi.jpn.org/
(※14)よしさん(2008):「これがソウギョの糞塊だ(千葉県雄蛇ケ池の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※15)よしさん(2009):「雄蛇ケ池のアオコ現象、見た目と実態(2009年)」http://wakasagi.jpn.org/
(※16)よしさん(2009):「アオコ現象の千葉県雄蛇ケ池における捨水管理と結末」http://wakasagi.jpn.org/
(※17)よしさん(2009):「紅葉してもアオコ現象の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※18)よしさん(2010):「アオコ現象連続発生の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※19)よしさん(2010):「師走の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告」http://wakasagi.jpn.org/
(※20)よしさん(2011):「ソウギョはクヌギも食べている」http://wakasagi.jpn.org/
(※21)よしさん(2011):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※22)よしさん(2011):「雄蛇ケ池におけるソウギョの糞塊」http://wakasagi.jpn.org/
(※23)よしさん(2011):「師走の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告(2011)」http://wakasagi.jpn.org/
(※24)よしさん(2012):「皐月の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告(2012)」http://wakasagi.jpn.org/
(※25)よしさん(2012):「ソウギョはクヌギも食べている(その2)」http://wakasagi.jpn.org/

発表:2012年07月24日(火)前牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0001 雄蛇ケ池
転載許可: 「雄蛇ヶ池バスフィッシングガイド」 に本稿転載を許可します。よしさん。

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