スポンサードなし、よしさんの自費研究成果です

ワカサギふ化放流ノート
千葉県笹川湖のフサカ属(2012年)
The Chaoborus flavicans of the Sasagawa reservoir (2012).
【千葉県笹川湖のフサカ属(2012年)】
笹川湖(千葉県君津市)は、2001(平成13)年に完成した、大規模な貯水池(洪水防止用・上水道用・流量調整用・亀山ダム砂防用)である(※01)。

【目的】
よしさんは、笹川湖における魚類餌料プランクトン調査を、2010年に実施・報告している(※05〜07)が、 再び、夏季の魚類餌料プランクトン環境を明らかにすることを目的に、 2012年08月31日(金)、笹川湖(レンタルボートすずき桟橋)でプランクトンを採取し、 現地でただちにホルマリン固定の上、持ち帰り検鏡観察したので報告する。

【結果】

fig.01 フサカ属(全体)
fig.01 フサカ属の幼虫(全体)Chaoborus flavicans
fig.02 フサカ属(頭部)
fig.02 フサカ属の幼虫(頭部)
Chaoborus flavicans
fig.03 フサカ属(尾部)
fig.03 フサカ属の幼虫(尾部)
Chaoborus flavicans
検鏡し撮影した顕微鏡写真を、上記に示す(fig.01-fig.03)、なお背景のグリッドは100μm間隔である。
2012年夏季の笹川湖は、5mほど減水しており(※11・fig.00)、藍藻類のアナベナ・マクロスポーラ Anabaena macrospora を主因とする アオコ現象が発生し(※12)、その程度は、国立環境研究所の提唱した「見た目アオコ現象」(※06)のレベルをあてはめると、 レンタルボートすずき桟橋周辺はレベル2〜3であった(※11・fig.00)。
異常繁殖したアナベナ・マクロスポーラ Anabaena macrospora の中に、フサカ属の幼虫 Chaoborus flavicans を観察した(fig.01-fig.03)。
同日調査した「千葉県笹川湖の魚類餌料プランクトン(2012年夏季)」(※11)・「千葉県笹川湖のアオコ現象(2012)」(※12) は別途報告している。

【考察】
「幼虫期だけを淡水中ですごす昆虫にはユスリカ・カゲロウ・トビケラ・カワゲラ・トンボなどがあって、魚の食物として 大切な役割をしている。(中略)ユスリカなどと同じ双翅目に属するフサカの幼虫にはえらはなく、体内に前後一対づつ、 いぶし銀色の空気ぶくろを備えている。」と宮地伝三郎博士は述べている(※01)。

フサカ幼虫は、プランクトンを捕食するので、従来肉食性と見られていたが、 「フサカ幼虫の主な餌は夏には鞭毛藻類の Ceratium hirundinella,春と秋には Daphnia rosea Sars であることが判った。」という研究がある(※02)。
Ceratium hirundinella は、笹川湖で多くみられるツノオビムシ(渦鞭毛虫・※10・fig.10)で、 Daphnia rosea Sars は、和名カワリハリナガミジンコである(※04)。

また、フサカ幼虫はプランクトン食性であるため、フサカ幼虫の生息する水域のプランクトン(Daphnia Pulex)は、 より喰われ難いように体の一部を「トゲ(棘)」に変化させる、つまり防御形態(ネックティース)を形成することも報告されている(※05)。

フサカ幼虫に、なじみのない釣り人もいるであろうが、 例えば、長野県深見池(最大深度7.75m)に生息するフサカ幼虫は、夏季において、 ブラックバスやブルーギルに捕食されていることが知られている(※07)。

本稿フサカ幼虫は、笹川湖において夏季の午前10:00に、中表層から採取された個体で、斜面を成すボトムから 採泥器で直接採取されたものではないことから、「昼間は泥に浅く潜っているが、夜間に水中に出て食物を採りこのときふくろの 空気を更新する。」(※01)というフサカ幼虫の本来の生活史を外れた個体と言え、 異常繁殖したアナベナ・マクロスポーラ Anabaena macrospora に阻まれ、朝になっても泥に沈むことが できなかったと推定される。
「1mあたり1万を越える生息密度も希ではない」(※01)とされるフサカ幼虫の、笹川湖における生息密度及び分布、並びに 推定総個体数等が将来明らかになれば、魚類資源管理等に応用の道が開けよう。

【謝辞】
プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたレンタルボートすずきに感謝します。

【参考文献】よしさん架蔵書
(※01)宮地伝三郎(1972):フサカ『淡水の動物誌』第2刷,152-153pp,朝日新聞社, \400
(※02)謝 平(1989):「魚のいない、富栄養池におけるプランクトン群集の栄養関係」
筑波大学理学博士学位論文(要旨), 104-105pp, http//www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/.../A0621.pdf
(※03)よしさん(1996〜2012):笹川湖「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※04)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』viii+584pp,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※05)今井眞木(2005):「環境変化に応じたミジンコの形態変化の分子機構」,
平成17年度リサーチアシスタント成果報告書,北海道大学・大学院地球環境科学研究院・低温科学研究所(札幌市),
http://www.ees.hokudai.ac.jp/coe21/J/study/17RA/imai.pdf
(※06)よしさん(2008):「見た目アオコ指標と指標写真」http://wakasagi.jpn.org/
(※07)永野真理子ら(2009):「可塑的防衛行動はいつも適応的か?:魚捕食のない冬期のフサカ日周鉛直移動」
日本生態学会第56回全国大会一般講演(ポスター発表) PC2-772, http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/PC2-772.html
(※08)よしさん(2010):「千葉県笹川湖のプランクトン(2010)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2010):「千葉県笹川湖のディフルギア属」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2010):「千葉県笹川湖のツノオビムシと淡水赤潮」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)よしさん(2012):「千葉県笹川湖の魚類餌料プランクトン(2012年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※12)よしさん(2012):「千葉県笹川湖のアオコ現象(2012)」http://wakasagi.jpn.org/

採取:2012年08月31日(金)10:00 笹川湖(レンタルボートすずき桟橋) 天候○◎ 水温:29.0℃
水位:減水4m 水の透明度:かなり不良 検鏡撮影:2012年09月09日(日)〜12日(水)
発表:2012年09月24日(月)前・牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0006 笹川湖

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