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ワカサギふ化放流ノート
ソウギョ糞塊の謎(千葉県雄蛇ケ池の事例)
Mystery (example of the Onjyaga-ike pond, chiba) of the grass carp fecal bulk.
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※02)。
ソウギョは除草を目的に、2006年早春に放流され、2008年07月現在、水生植物の減少が顕在化し、特に水面と水中をおおっていた ヒシモ・オオカナダモ・ハス等の被植は壊滅または激減し、池の水中及び水面に何もないオープンウォーターの日々が2012年10月現在も継続している。
この間、ソウギョの糞塊の解析を通じ、雄蛇ケ池におけるソウギョの主要餌料を特定する試みにトライしてきた(※03・※05)が、 今回は、前々日の「新鮮なソウギョの糞塊」発見情報をもとに、小谷津にて、ソウギョの糞塊を採取し、ホルマリン固定せずに持ち帰り、生のまま検鏡した。
fig.00 アオコ現象とソウギョの糞塊
fig.00 アオコ現象とソウギョの糞塊(小谷津)
2012年10月02日(火)の雄蛇ケ池・小谷津の奥の状況を、上に示す(fig.00)。
アオコ現象とソウギョの糞塊は入り混じり、なおも波浪により状況が悪化しつつあり、かろうじて画面中央に 浮遊するソウギョの糞塊が認められた(fig.00)。
fig.01 ソウギョの糞塊(09月30日)
fig.01 ソウギョの糞塊(09月30日)
(撮影・提供:つかじー氏)
fig.02 水面に漂うソウギョの糞塊(10月02日)
 fig.02 水面に漂うソウギョの糞塊(10月02日)
ブログ『雄蛇ヶ池の話 〜蛇の道は蛇〜』(※06)主宰者つかじー(ハンドルネーム)さんが、 2012年09月30日、小谷津の奥で観察撮影された、新鮮なソウギョの糞塊(観察者注:成人男性の親指よりも太いぐらい≒よしさん注:直径約2cm強)を上に示す(fig.01)、 凝視観察しても、3−5mmの水草砕片は見当たらない。
また、2012年10月02日、同所で観察採取したソウギョの糞塊を上に示す(fig.02)。
原形ではなく崩れていたが、水面の多くにアオコ現象が拡散し透視度が低下する中で、探索採取できた最良の部類のサンプルであった。

【結果】
採取したソウギョの糞塊の検鏡写真を以下に示す(fig.03-05)。

fig.03 糞塊の検鏡写真
fig.03 糞塊の検鏡写真(拡散状態)

fig.04 糞塊の検鏡写真
fig.04 糞塊の検鏡写真(密集状態)

fig.05 糞塊の検鏡写真
fig.05 糞塊の検鏡写真(集合状態)

●当初の目論みは外れ、糞塊中に明確な植物繊維質の断片は観察されなかった(fig.03-05)。
●ソウギョの糞塊は、なめらかな海綿状で、表面及び内部に直径3〜5μm程度の球形粒子を 多数含有していた(fig.03-05)。
●一部に、球形粒子の集合したような球体状の塊(短径150μm〜長径200μm)も、観察した(fig.05)。

【考察】
前2回の調査(※03・※05)に続き、今回もソウギョの糞塊中に植物片が観察されなかった理由はなぜであろうか。
■排出直後の分解初期に、比較的に大きな植物片が遊離してしまう
■消化速度が異常に早い
等が挙げられようが、先行事例の「中国綜合養魚の生態・生理学的研究-I」(※01)とは整合せず、謎は残る。

「中国綜合養魚の生態・生理学的研究-I」(岩田勝哉ら,1992)は、2008年以前には国立国会図書館よりコピーを 取寄せて読んだが、最近はオンラインに公開され便利になった(※01)。
★同報文によると、セキショウモ属の水草(※04・中国名:苦草 Vallisneria spiralis)を主たる飼料とした、中国の養殖場における、 岩田らの条件下では「排出直後のソウギョの糞は主として3−5mmの水草砕片からなっており、実験開始時では1mm以下の 粒子は乾燥重量の約7%を占めるにすぎないが、(中略)実験終了時には1mm以下の粒子は糞全体の43%を占めるまでに増加してくる。」 (pp.344)とあるが、雄蛇ケ池における観察事例では糞塊中に1mmという大きな粒子は見られなかった点が相違する。

雄蛇ケ池に生息するソウギョから、なぜ、直径3〜5μm程度の球形粒子を主とする糞塊が排出されるのか、 観察事例を合理的に説明できる理由を探し、「数学的思考」をすれば、次式の成立が予測される。

餌料植物×(ソウギョ消化管内環境)=大部分を直径3〜5μm程度の球形粒子が占める・・(式1)
餌料植物×(ソウギョ消化管内環境)×排出後経日変化=大部分を直径3〜5μm程度の球形粒子が占める・・(式2)

ここで「新鮮なサンプル」を、先行事例(※01)に従い概ね排出後16日以内と定義すれば、全3回の調査において採取観察した糞塊は、 いづれも排出後数日以内の「新鮮なサンプル」と見られ、排出後経日変化は考慮外で良いこととなり、実質的に(式1)が残る。

(式1)の「ソウギョ消化管内環境」に注目し、ソウギョにおいては摂餌と糞塊排出がほぼ連動すると仮定すれば、 「餌料植物が極端に少ない皿池状の灌漑用溜池に生息するソウギョは、糞塊排出迄に長時間を要し、消化管内で著しく消化が進行する」 との定性的仮説が暗示される。
植物片の確認は植食性魚の糞塊を証明する重要な基本事項であり、雄蛇ケ池における証明は未だなされていないこと、及び この仮説が正しいかどうかは、今後さらに継続調査を要する。
2008年から4年間を掛け、現場が教えてくれたことを、またひとつキャッチできたようだ。

【謝辞】
本調査を実施するに当たり、雄蛇ケ池におけるソウギョの糞塊情報を頂戴し、写真転載許可を頂いた、ブログ『雄蛇ヶ池の話 〜蛇の道は蛇〜』 (※06)主宰者つかじー(ハンドルネーム)さんに、お礼を申し上げます。

【参考文献】
(※01)岩田勝哉・高村典子・李家楽・朱学宝・三浦泰蔵(1992):
「中国綜合養魚の生態・生理学的研究−T 好気的実験条件下におけるソウギョの糞の分解過程」.陸水学雑誌(53−4)pp.341−354.

(※02)よしさん(1996〜2012):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※03)よしさん(2008):「これがソウギョの糞塊だ(千葉県雄蛇ケ池の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※04)よしさん(2010):「群馬県榛名湖のセキショウモ」http://wakasagi.jpn.org/
(※05)よしさん(2011):「雄蛇ケ池におけるソウギョの糞塊」http://wakasagi.jpn.org/

(※06)つかじー(2012):『雄蛇ヶ池の話 〜蛇の道は蛇〜』http://ojyagaike.naturum.ne.jp/

採取:2012年10月02日(火)11:30 天候◎○ 気温:24.0℃ (at11:00, mobara)
水温:23.4℃ 水位:ほぼ満水 水の透明度:やや不良(アオコ現象あり)
発表:2012年11月09日(金)前・牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0001 雄蛇ケ池
転載許可: 「雄蛇ヶ池バスフィッシングガイド」 に本稿転載を許可します。よしさん。

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