タイワンシャクナゲは、原産地台湾で標高1500m付近の山地帯下部に自生する虫媒花である(※24)。
甲虫研究家・窪木幹夫(元東京農業大學農学部昆蟲學研究室)の
「台湾産ハナ力ミキリ亜科Pidonia属の生活と訪花植物」(※24)によれば、
台湾北部(NW,NE)及び西南部(CW,SW)に自生するタイワンシャクナゲに、
「@成虫の活動のエネルギー源となる花蜜を模食すること, A成虫, 特に雌の卵巣発育のために花粉を摂食すること, B花を雌雄の出会いと交尾の場とすること
」を目的に、
ハナカミキリ亜科 Pidonia属のヒメハナカミキリが訪花し、タイワンシャクナゲから採集された Pidonia属の個体数は3段階評価(多い・普通・少ない)の
中間、"普通" であった、と報告されている。
すなわち、タイワンシャクナゲの受粉を成功させ、繁茂させる重要な要因のひとつは、甲虫が担っていることが明らかにされた報告事例である。
これを水平展開すれば、本報で扱ったツツジ属 Rhododendron sp. は虫媒花であることに由り、
どの種も何れかの甲虫類と互恵関係にあると強く暗示される。
しかし、少なくとも日本の自生種数約50種の、どの種が、どの甲虫と特別な互恵関係にあるかの研究分野は全貌が把握されているとは言えないようで、
今後の解明が待たれる。
なぜなら、ツツジ属 Rhododendron sp. を隆盛に導く要因は従来の、土の種類・日当たり具合・水遣り・施肥条件等農業的視点に先立ち、
植栽候補地選定段階で「(そこにいる)虫を見て花を植える」手法が想起されるからである。
また、種苗甫・緑地・大規模公園等に代表される既取得地に植栽導入するケースでは「花を増やす者、虫をも増やす」手法への
応用の可能性があろう。
当然のことながら、周囲の産業に副次的被害を与えない・生態系の攪乱を招来する恐れが少ない等の条件下で、
実用の道が検討されて良い。
「大事なことは書物の中に書き残されている」であったか、正確な訳を確認すべく、『フィロビブロン -書物への愛-』(※17)を
開いたところ、第一章の題が、「知恵の宝はおもに書物のうちに収められている」であった(17pp)。
本書は、リチャード・ド・ベリー(Richard de Bury, 1287-1345, 英国の聖職者)が14世紀にラテン語で述べ、15世紀に印刷術が発明されると
版を重ねた『PHILOBIBLON』の初完訳で、よしさんもベリーの第一章の題に共感する。
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【謝辞】
オンラインで自由に閲覧できる「近代デジタルライブラリー」を整備提供くださる、国立国会図書館関係者様に感謝します
新宿御苑(東京都)の'峰の松風'をご教示頂いた環境省自然環境局新宿御苑管理事務所林様に感謝します
清水公園(千葉県野田市)のワカサギの開花状況を、2013年にご案内頂いた株式会社千秋社清水公園の鈴木様
及び2014年にご案内頂いた同・竹本様に感謝します
ホンシャクナゲ・タイワンシャクナゲをご教示頂いた国立歴史民俗博物館くらしの植物苑山村 聡様に感謝します
【参考文献(よしさん架蔵書)】
(※01)原著:源 順,校訂:那波道円1648(慶安戊子元年):「羊躑躅」『倭名類聚鈔』和本,巻之廿,廿七丁裏,渋川清右衛門,外題:和名類聚鈔,
927(延長05)成立,
(※02)水野元勝ら:1681(延宝09)一しほ『花壇綱目全3巻』下巻16丁表,国立国会図書館デジタルコレクション
(※03)伊藤伊兵衞三之丞:1692(元禄05)ひとしほ『錦繍枕全5巻』1巻21丁裏22丁表,国立国会図書館デジタルコレクション
(※04)伊藤伊兵衞三之丞:1695(元禄08)ひとしほ『花壇地錦抄全6巻』2巻16丁表,国立国会図書館デジタルコレクション
(※05)編纂正宗敦夫:原著深江輔仁:1928(昭和03)『本草和名』上巻,日本古典全集刊行会,非売品
892(寛平04)〜927(延長05)に成立,底本は1796(寛政08)板行森枳園父子蔵本,
(※06)伊藤伊兵衞三之丞:1933(昭和08)ひとしほ『花壇地錦抄』51pp,京都園芸倶楽部,国立国会図書館デジタルコレクション
(※07)牧野富太郎:1936(昭和11)『随筆草木志』265pp-,南光社(東京),グーグルデジタル版
http://books.google.co.jp/books?id=ALiNAWFKGEsC&printsec=frontcover&hl=ja#v=onepage&q&f=false
(※08)考註矢野宗幹:原著益軒貝原篤信:1936(昭和11)『考註大和本草』第二冊,10+348+166+29pp,春陽堂書店,非売品
原本は1709(宝永06),和本,
(※09)東京山草会監修:1969(昭和44)『シャクナゲとツツジ』,295pp,誠文堂新光社,\1200,
(※10)牧野富太郎:1970(昭和45)『牧野富太郎選集』,第四巻,42-59pp,株式会社東京美術,\800,函
(※11)校注加藤 要:原著伊藤伊兵衞三之丞:1976(昭和51)『花壇地錦抄』東洋文庫288,3-184pp,株式会社平凡社,\900,函
校注加藤 要:原著伊藤伊兵衞:1976(昭和51)『草花絵前集』東洋文庫288,185-312pp,株式会社平凡社,\900,函
『花壇地錦抄』底本は1695(元禄08)志村孫七開板,京都大学図書館蔵書
『草花絵前集』底本は1699(元禄12)伊藤伊兵衞刊,東京大学図書館蔵書
(※12)宮澤文吾:1978(昭和53)『花木園藝』復刻第1刷,4+10+575pp,八坂書房,\7500,函
原本は1940(昭和15),養賢堂,5圓80銭,
(※13)山本章夫:1979(昭和54)『萬葉古今動植正名』,137-139pp,恒和出版,\1800,
(※14)伊沢凡人:1981(昭和56)『原色版日本薬用植物事典』第2版,6+14+331pp,誠文堂新光社,\20000,
(※15)編纂京都園芸倶楽部:解説北村四郎:原著伊藤伊兵衞政武:1983(昭和58)『地錦抄附録』214+58pp,復刻版,生活の古典双書,八坂書房,\2800,函
底本は1733(享保18),和本,
(※16)校閲新村 出:校訂竹内 若:原著松江重頼:1988(昭和63)『毛吹草』,505pp,岩波文庫30-200-1,岩波書店,\700,
原本は1645(正保02),和本,
(※17)リチャード・ド・ベリー原著,古田暁訳:1989(平成元)『フィロビブロン -書物への愛-』,216pp,学術文庫896,講談社,\600,
(※18)塚本洋太郎総監修:1989(平成元)『園芸植物大事典』3巻,598pp,小学館(東京),\13500,
(※19)小林伸雄:1997(平成09)「常緑性ツツジの類縁関係と園芸品種の起源解明に関する研究」,博士論文,筑波大学付属図書館,
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/B11/B1117514/1.pdf
(※20)真田 勝・坂上 勉:1998(平成10)「樹木園の花便り」1-6pp,研究レポートNo.45,森林総合研究所北海道支所,
http://www.ffpri-hkd.affrc.go.jp/koho/rp/rp1_53/rp45.pdf
(※21)東京都立大学理学部牧野標本館:1999(平成11)Rhododendron ripense (キシツツジ)「牧野標本館タイプ標本データベース」
http://ameba.i.hosei.ac.jp/bidp/makinocd/makino/prep_j/MAK100001.html
(※22)水谷泰弘:2003(平成15)「江戸の園芸書から」101pp-120pp,名古屋大学大学院『言語文化研究叢書』第2号,
www.lang.nagoya-u.ac.jp/proj/sosho/2/mizutani.pdf
(※23)三谷芳男:2003(平成15)「ツツジ交配・実生栽培のコツ教えます」,『現代農業』2003年5月号,308-311pp,
(※24)窪木幹夫:2005(平成17)「台湾産ハナ力ミキリ亜科Pidonia属の生活と訪花植物」
日本鞘翅学会,甲虫ニュース COLEOPTERISTS' NEWS,No.150 june 2005,1-5pp,
http://coleoptera.sakura.ne.jp/ColeoNews/ColeoNews150.pdf
(※25)磯野直秀:2007(平成19)クロフネツツジ「明治前園芸植物渡来年表」27-58pp,慶應義塾大学日吉紀要・自然科学No.42,35pp,
(※26)小林伸雄ら:2008(平成20)「山陰地域を中心としたキシツツジRhododendron ripense Makino の
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/7/2/7_2_181/_pdf
(※27)株式会社鹿児島TLO:2008(平成20)「市場拡大を促す新種ツツジの育成技術」,独立行政法人工業所有権情報・研修館,
http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/business/19t3-5.pdf
(※28)仁田坂英二:2009(平成21)「古典園芸植物のドメスティケーション」,
山本紀夫編『ドメスティケーション―その民族生物学的研究』国立民族学博物館調査報告84:409−443(2009),
http://ir.minpaku.ac.jp/dspace/bitstream/10502/4027/1/SER84_020.pdf
(※29)森林総合研究所多摩森林科学園:2013(平成25)「所蔵植物標本データベース」,森林総合研究所多摩森林科学園
http://db1.ffpri-tmk.affrc.go.jp/
(※30)林:2013(平成25)「問合せ回答」,環境省自然環境局新宿御苑管理事務所(私信),
(※31)鈴木:2013(平成25)「問合せ回答」,株式会社千秋社清水公園(私信),
(※32)竹本:2014(平成26)「問合せ回答」,株式会社千秋社清水公園(私信),
(※33)Zelkova serrata:2014(平成26)「問合せ回答」,ブログ樹まぐれ日記,
http://acermono.blog.fc2.com/?no=410
(※34)山村 聡:2014(平成26)「ホンシャクナゲ・タイワンシャクナゲ問合せ回答」,国立歴史民俗博物館くらしの植物苑(私信),
【注】
『本草和名』(※05)、『倭名類聚鈔』(※01)、『考註大和本草』
(※08)から本稿への、写真複製・有線送信・本HP掲載公表(fig.01-fig.03)は、
「ベルヌ条約」及び「万国著作権条約」並びに国内法「著作権法」を踏まえた合法行為です。
国立国会図書館デジタルコレクションから本稿への、写真複製・有線送信・本HP掲載公表(fig.04-fig.06)は、同館「ウェブサイト:利用上のご注意」
を順守しています。
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