【結果】
採取した池水を顕微鏡下で観察したところ、今回の水の華(アオコ現象)は、ネンジュモ目のアファニゾメノン属 Aphanizomenon sp.
(fig.01)の圧倒的な優占によるものと判明した。
他に、藍藻のミクロキスティスベーゼンベルギー(fig.02)、アナベナマクロスポーラ(fig.03-04)、
アナベナスピロイデス クラッサ(fig.05)、ユレモ属の一種(fig.06)を観察したが、個体数は少数で、
都合5種からなる複合現象であった。
国立環境研究所の提唱した「見た目アオコ現象」(※12)のレベルをあてはめると、 池全体はレベル1〜2、桟橋付近でレベル2であった(fig.00)。
透明度は約2mあり、近年の夏季としては稀に高く、溶存酸素量(Do)は未測定ながら、魚類生残には問題なしと推定できた。
なぜなら、水中を遊泳するオオクチバス未成魚を目視したこと、並びに水面に漂う斃死魚が見当たらないからである。
【考察】
通常の植物プランクトンと比較して、ある程度の大きさを有するアファニゾメノン属の群体が優占種となった状況は、
水面下に光線が入りやすく、透明度を高めている原因と思われる。
従って、夏季に透明度が高くなっても、それが直ちに植物プランクトンの減少や、まして溶存酸素量(Do)低下にそのまま結びつくものではない。
アファニゾメノン属の詳細は、別途報告している(※34)。
近年の雄蛇ケ池において、夏季の藍藻類は、多種複合型で発生し、どの種も平均的に繁殖する夏と、ある種のみが異常繁殖する夏が、交互に見受けられる傾向にある
(藍藻類の変遷の周期性)ことは既に指摘し(※26)、
2013年夏季は、観察結果から、「どの種も平均的に繁殖する夏」に相当すると報告した(※29)。
2014年夏季は、藍藻類5種が観察されたものの、優占種はアナベナ マクロスポーラで、「ある種のみが異常繁殖する夏」に該当した(※32)。
2015年夏季は、多種複合型とは言うものの、出現種全てがミクロキスティス属であり、アナベナ属が観察されなかった点にある(※33)。
2016年夏季の特徴は、上記の通り、5種複合型であって、且つ「ある種のみが異常繁殖する夏」に該当する。
この観察結果は、
筆者が2012年に提唱した仮説「藍藻類の変遷の周期性」が補強されつつある状況に合致する。
しかし、タイプが隔年交互に発生し、優占種が隔年ごとに交代する原因は不明で、今後も雄蛇ケ池における藍藻類の長期継続調査が求められる。
雄蛇ケ池における近年のアオコ現象関係は、別途報告している(※09〜※33)。
同日調査した「千葉県雄蛇ケ池の魚類餌料プランクトン(2016年夏季)」については、別途報告した(※35)。
掲載写真背景のグリッドは100μm間隔である。
【謝辞】
★プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたボートハウスツカモトに感謝します。
★雄蛇ケ池を通年観察し、都度状況をオンライン報告くださる
「雄蛇ヶ池 蛇の道は蛇」
主宰つかじーさんに感謝します。
【参考文献】よしさん架蔵書
(※01)生嶋 功(1991):『水の華の発生機構とその制御』第2刷,183pp,東海大学出版会,\1648
(※02)朱 浩然(1991):『中国淡水藻志 第二巻 色球藻綱』第1版,vi+161pp,科学出版社(北京),13.00元
(※03)藤田善彦・大城 香(1993):『ラン藻という生きもの』第2刷,134pp,東京大学出版会,\1648
(※04)渡辺真利代・原田健一・藤木博太(1994):『アオコ−その出現と毒素−』257pp,東京大学出版会,\4738
(※05)よしさん(1996〜2016):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※06)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※07)渡辺眞之(2007):『日本アオコ大図鑑』159pp,誠文堂新光社,\6000+税
(※08)よしさん(2006):「水の華シロコ現象とは(亀山湖における2005年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)よしさん(2006):「アオコとは(雄蛇ケ池における2006年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※10)よしさん(2007):「アオコとは(雄蛇ケ池における2007年の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※11)よしさん(2008):「雄蛇ケ池のアオコ現象と原因藍藻類の変遷(2006〜2008年)」http://wakasagi.jpn.org/
(※12)よしさん(2008):「見た目アオコ指標と指標写真」http://wakasagi.jpn.org/
(※13)よしさん(2008):「雄蛇ケ池におけるアオコ現象と想定される毒性」http://wakasagi.jpn.org/
(※14)よしさん(2008):「これがソウギョの糞塊だ(千葉県雄蛇ケ池の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※15)よしさん(2009):「雄蛇ケ池のアオコ現象、見た目と実態(2009年)」http://wakasagi.jpn.org/
(※16)よしさん(2009):「アオコ現象の千葉県雄蛇ケ池における捨水管理と結末」http://wakasagi.jpn.org/
(※17)よしさん(2009):「紅葉してもアオコ現象の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※18)よしさん(2010):「アオコ現象連続発生の千葉県雄蛇ケ池」http://wakasagi.jpn.org/
(※19)よしさん(2010):「師走の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告」http://wakasagi.jpn.org/
(※20)よしさん(2011):「ソウギョはクヌギも食べている」http://wakasagi.jpn.org/
(※21)よしさん(2011):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2011年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※22)よしさん(2011):「雄蛇ケ池におけるソウギョの糞塊」http://wakasagi.jpn.org/
(※23)よしさん(2011):「師走の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告(2011)」http://wakasagi.jpn.org/
(※24)よしさん(2012):「皐月の雄蛇ケ池における、藍藻類観察報告(2012)」http://wakasagi.jpn.org/
(※25)よしさん(2012):「ソウギョはクヌギも食べている(その2)」http://wakasagi.jpn.org/
(※26)よしさん(2012):「千葉県雄蛇ケ池における藍藻類の変遷(2006〜2012)」http://wakasagi.jpn.org/
(※27)よしさん(2012):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2012年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※28)よしさん(2012):「ソウギョ糞塊の謎(千葉県雄蛇ケ池の事例)」http://wakasagi.jpn.org/
(※29)よしさん(2013):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2013年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※30)よしさん(2013):「藻食性アメーバ・アステロカエラムによる千葉県雄蛇ケ池のシロコ現象」http://wakasagi.jpn.org/
(※31)よしさん(2013):「千葉県雄蛇ケ池における、藻食性アメーバ・アステロカエラムの諸相」http://wakasagi.jpn.org/
(※32)よしさん(2014):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2014年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※33)よしさん(2015):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2015年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※34)よしさん(2016):「千葉県雄蛇ケ池におけるアファニゾメノン属」http://wakasagi.jpn.org/
(※35)よしさん(2016):「千葉県雄蛇ケ池の魚類餌料プランクトン(2016年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
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