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ワカサギふ化放流ノート
千葉県雄蛇ケ池におけるアファニゾメノン属
Aphanizomenon of the Onjyaga-ike pond, Chiba.(2016,Summer)
fig.00 雄蛇ケ池のアファニゾメノン属(ボートハウスツカモト桟橋)
fig.00 雄蛇ケ池のアファニゾメノン属(ボートハウスツカモト桟橋)

【千葉県雄蛇ケ池におけるアファニゾメノン属】
雄蛇ケ池(千葉県東金市)は、1614(慶長19)年に完成した、大規模な灌漑用溜池である(※05)。

【目的】
筆者は、2016年07月09日(土)、雄蛇ケ池クリーンアップ大作戦へ参加し、堰堤及び雄蛇ケ池北岸遊歩道のゴミを 拾いつつ、アオコ現象の状況確認を行い、原因藍藻類解析のため ボートハウスツカモト桟橋で池水を採取し(fig.00)、持帰り検鏡観察したので報告する。

fig.01 アファニゾメノン属 Aphanizomenon sp.
fig.01 アファニゾメノン属 Aphanizomenon sp.
【考察】
アナベナの仲間・アファニゾメノン属は、まとまった群体をつくり水面に浮遊する。
しかし、群体数がそれほど多くない場合に、 通常の植物プランクトンと比較して、ある程度の大きさを有するアファニゾメノン属の群体が優占種となった状況では、 風上側の水面は水面下に光線が入りやすく、透明度を高めている原因と思われる。
雄蛇ケ池におけるアファニゾメノン属は、2016年夏季に突然発生したものではなく、 筆者の2013年報告「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2013年夏季)」にも単体を掲載しており(※08・fig.06 unknown)、 所有設備的に同定はできぬものの、形態的特徴から アファニゾメノン・フロスアクアエ Aphanizomenon flos-aquae と推定される。

アファニゾメノン属は、古くは淡水養魚面で重要視されていた。
北海道立孵化場の江口 弘が養魚場の「水中施肥の効果について」として、1954年にドイツの事例を報告している(※09)。
その概略は、「1935年にウエルマン氏がドイツのシユレエジエン地方の養鯉池に発生する青粉によって、同地方の養鯉池の等級をき めるということを発表した。それによれば、養鯉池を次の三つの階級に分けているが、栄養分の之しい最も悪い池というのは、 一年中透明な水を持っていてプランクトンの数が少なく、その種類が多いのをもって特徴とする。次の階級の池は池水が時々緑色に染められる。 即ち多数のアナベーナ(藍藻の一種類)、その他の藍藻類と多数の緑藻を含む。最も良い池は一年中緑色を呈し、アフアニゾメノン(藍藻の一種類)がその大部分を占め、 他の藍藻類や緑藻類が殆んどなくなる。」とある(同報告9pp)。

アファニゾメノン属は、その後は湖沼の富栄養化・環境問題として扱われることが主流となった。
加藤 晃司らは「リモートセンシングによる釧路3湖沼の富栄養化状態の把握」として、2004年に状況確認の技術論を報告している(※10)。
その概略は、「北海道釧路湿原国立公園内にある塘路湖では、1965年及び1991年の報告でも、 アファニゾメノンが多く出現していることが報告されており、塘路湖における2003年調査では、優占種と して「アオコ」を構成するアファニゾメノンが大半を占めていることがわかった。」とある。

三上英敏は「網走湖のアオコと青潮」として、2004年に事例を報告している(※11)。
その概略は、「網走湖は現在汽水湖ですが、1920年代は全くの淡水湖でした。また、当時は藍藻のアファニゾメノンが確認 されており、流域河川からの負荷によって網走湖は富栄養化していたと考えられています。 網走湖では、1950年代頃からアファニゾメノンに代わってアナベナによるアオコが確認され始め、その規模 も大きくなり網走湖の大きな環境問題となっています。」とする。
筆者が、2012年01月に、第16回ワカサギに学ぶ会(北海道オホーツク文化交流センター・網走市)に参加の折り、 網走湖(網走市・大空町)で採取し、観察した「網走湖の植物プランクトン」(※12)においても、 アファニゾメノン属は出現せず、アナベナ マクロスポーラ、クロオコックス属、シネドラ属(珪藻)が観察されている。

最近は、厄介者のアファニゾメノン属ではなく、人に対する有用藍藻類として、アファニゾメノン抽出物の利用法に力点が移りつつあるようだ。
NUTRATEC S.R.L.は「アファニゾメノン・フロスアクアエ(AphanizomenonFlosAquae)の抽出物、 ならびに同抽出物を含む栄養、美容および薬剤組成物」として、2009年に特許公報に公開している(※13)。
その概略は、「藍藻の多種類のうちの1つである、アファニゾメノン・フロスアクアエ(AFA)は、オレゴン州南部のアッパークラマス湖において豊富に見出される。 それは、少数の食用微細藻類の1つで、広範にわたるビタミンおよび有機ミネラル、タンパク質およびアミノ酸、オメガ3脂肪酸を含み、 真に注目すべき栄養プロファイルの発現を可能とする最適な環境において野生で生育する限りにおいて、スピルリナおよびクロレラなど、池で生育する他の微細藻類と異なる。 それは、クロロフィルおよびカロテンなど、抗酸化特性に恵まれた一定数の栄養物を含むことも知られている。 最近数年間における多様な研究は、微細藍藻スピルリナのフィコシアニンが保有する顕著な抗酸化および抗炎症特性を示してきた、 より近年、AFA未精製抽出物のin vitroにおける抗酸化特性が報告されている(Benedetti S., Scoglio S., Canestrari F.ら、 「Antioxidant properties of a novel phycocyanin extract from the blue-green alga Aphanizomenon Flos Aquae」、Life Sciences、第75巻、2004年、2353〜2362頁)。 本発明は、クラマス湖産微細藻類(アファニゾメノン・フロスアクアエ(Aphanizomenon Flos Aquae Aquae Ralfs ex Born.& Flah.Var.flos aquae)) の活性成分を濃縮し、その藻類の抽出物を提供する。」とある。

上述したように、アファニゾメノン属の捉え方は、時代背景(食料増産・淡水養魚の盛衰・国土開発・環境美化)及び研究者の専攻 (魚類学・土木工学・環境学・陸水学・化学)によって異なっている。
そこから学ぶべきは、専門的一分野からの視点のみに拘らない複眼的思考の勧めであり、それを導くリベラルアーツの素養の嵩(充実)ではあるまいか。

同日調査した「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2016年夏季)」(※14)及び「千葉県雄蛇ケ池の魚類餌料プランクトン(2016年夏季)」(※15) については、別途報告した。
掲載写真背景のグリッドは100μm間隔である。

【謝辞】
★プランクトン調査のため、桟橋利用を快諾されたボートハウスツカモトに感謝します。
★雄蛇ケ池を通年観察し、都度状況をオンライン報告くださる
「雄蛇ヶ池 蛇の道は蛇」 主宰つかじーさんに感謝します。

【参考文献】よしさん架蔵書
(※01)生嶋 功(1991):『水の華の発生機構とその制御』第2刷,183pp,東海大学出版会,\1648
(※02)朱 浩然(1991):『中国淡水藻志 第二巻 色球藻綱』第1版,vi+161pp,科学出版社(北京),13.00元
(※03)藤田善彦・大城 香(1993):『ラン藻という生きもの』第2刷,134pp,東京大学出版会,\1648
(※04)渡辺真利代・原田健一・藤木博太(1994):『アオコ−その出現と毒素−』257pp,東京大学出版会,\4738
(※05)よしさん(1996〜2016):雄蛇ケ池「ザ・レイクチャンプ」http://lake-champ.com
(※06)田中正明(2002):『日本淡水産動植物プランクトン図鑑』,名古屋大学出版会(名古屋市), \9975
(※07)渡辺眞之(2007):『日本アオコ大図鑑』159pp,誠文堂新光社,\6000+税
(※08)よしさん(2013):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2013年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※09)江口 弘(1954):「水中施肥の効果について」
北海道立解化場「魚と卵」第47号(第5巻第5号) 1954(S29)年11月号 9-12pp
http://salmon.fra.affrc.go.jp/kankobutu/tech_repo/fe16/fishandegg047_p09-12.pdf
(※10)加藤 晃司ら(2004):「リモートセンシングによる釧路3湖沼の富栄養化状態の把握」
土木学会第59回年次学術講演会(平成16年9月)
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2004/59-7/59-7-0104.pdf
(※11)三上英敏(2004):「網走湖のアオコと青潮」
北海道環境科学研究センターニュース第19号 2004
http://www.hokkaido-ies.go.jp/center/Book/Eco/Eco19/P1%EF%BD%9EP4.pdf
(※12)よしさん(2012):「網走湖の植物プランクトン」http://wakasagi.jpn.org/js-news06-20120127ab-4.htm
(※13)NUTRATEC S.R.L(2009):
特許公報「アファニゾメノン・フロスアクアエ(AphanizomenonFlosAquae)の抽出物、ならびに同抽出物を含む栄養、美容および薬剤組成物」
http://www.ekouhou.net/
(※14)よしさん(2016):「千葉県雄蛇ケ池のアオコ現象(2016年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/
(※15)よしさん(2016):「千葉県雄蛇ケ池の魚類餌料プランクトン(2016年夏季)」http://wakasagi.jpn.org/

採取:2016年07月09日(土)08:00 天候● 気温:23.4℃ (at08:00 mobara) 水温:26.4℃
水位:満水 水の透明度:約2m 検鏡撮影:2016年07月22日(金)
発表:2016年08月03日(水)四街道市社会教育委員よしさん
「ザ・レイクチャンプ」シークレット・ポイント0001 雄蛇ケ池

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