亀山湖・牛久沼は首都圏近郊のワカサギ釣り場をめざします

ワカサギふ化放流ノート
第14回ワカサギに学ぶ会参加報告
A meeting report to learn from No.14 japanese-smelt.
fig.01 河口湖から見る富士山
fig.01 河口湖から見る富士山
第14回ワカサギに学ぶ会は、2010年02月04日(木)〜05日(金)、山梨県・環境科学研究所(富士吉田市)において開催された。
北は北海道から、西は鳥取県の水産試験場迄、道県・水産試験場・漁協等関係者総勢100名が参加する盛況ぶりであった。

講演は、水産総合研究センター中央水産研究所内水面研究部坂野博之主任研究員の『地球温暖化が浅い湖沼の漁業生産に与える影響:ワカサギについて』である。
中央水研・信州大学・長野県水産試験場・滋賀県立大学・滋賀県水産試験場の5機関が進める共同研究のうち、ワカサギ関係の概要をご紹介頂いた。
例えば、「信州大学の採取した動物プランクトンデータと、湖沼水温の関係を検討され、ワカサギ仔魚の初期餌料となるワムシ類等小型の動物プランクトンは、温暖化で 水温上昇時期が早くなると春の出現時期が早くなり、同時により早い時期に湖から姿を消す」こと。
例えば、「長野県水産試験場諏訪支場の収集データから、ふ化仔魚がふ化直後に経験した水温と当年08月のワカサギ歩留まりを解析され、 ワカサギふ化仔魚はふ化直後に経験する水温が高いほど、生残率が低下する」こと。
また、湖沼水温の低い時期のふ化仔魚はワムシ類から喰いはじめ、より大きく成長するが、 湖沼水温の高い時期のふ化仔魚はコペポーダ類に喰いつき、成長が劣る傾向がある、とも指摘された。
fig.02 中央水研坂野博之主任研究員の
『地球温暖化が浅い湖沼の漁業生産に与える影響:ワカサギについて』 fig.02 中央水研坂野博之主任研究員の
『地球温暖化が浅い湖沼の漁業生産に与える影響:ワカサギについて』
fig.02 中央水研坂野博之主任研究員の『地球温暖化が浅い湖沼の漁業生産に与える影響:ワカサギについて』

北海道立水産孵化場の真野修一さんは、『北海道のワカサギ漁業の現状と課題』を報告された。
網走湖のワカサギ受精卵出荷状況を再現テストし、 梱包等出荷前時間6時間及び輸送時間48時間(発生を進めぬよう輸送中は氷で0℃をキープ)の条件下で、 スライドグラスへの付着率は91.8〜96.0%であり、飼育試験における生残率は50%ほどで、 問題はないと評価した、と説明があった。
濤沸湖の受精卵についても聞き取り調査の結果、網走湖と同様に採卵当日発送しており問題はなく、 阿寒湖の出荷状況については今後聞き取り調査予定との由。
fig.03 北海道立水産孵化場真野修一さんの
『北海道のワカサギ漁業の現状と課題』 fig.03b 真野修一さん原版提供
fig.03 北海道立水産孵化場真野修一さんの『北海道のワカサギ漁業の現状と課題』 fig.03b 真野修一さん原版提供
【2010年03月01日真野修一氏私信により一部修正 thanks Mr.S.Mano, yoshisan.】

秋田県水産振興センターの渋谷和治部長は、『秋田県におけるワカサギの漁獲状況と八郎湖における増殖』を報告された。
十和田湖では(最重要魚種ヒメマスと餌料競合するため)ワカサギの増殖放流を実施していないが、近年の漁獲量は 2004年47.4トン・2005年71kg・2007年20トンと大きく変動し、ワカサギは自然増殖していること。
八郎湖においては、ワカサギが最重要魚種で毎年300トン程度が漁獲され、ふ化仔魚放流も実施しているが、 卵の発眼・ふ化率が低く、ふ化放流技術の改善が急務である、と説明された。
学ぶ会の休憩時間に用水をお訊ねすると、濁度のある湖水をふ化用に使用している由で、よしさんは 北海道の事例(※01)を踏まえ、用水の濁度処理を進言した。

(※01) 「石狩におけるワカサギ卵孵化管理事業の現状調査」試験研究は今・第470号
水産孵化場養殖技術部養殖応用科・佐々木義隆科長の、ワカサギ孵化管理事業の現状把握と、改善提案論文(2002年03月25日)が紹介されている。

fig.04 秋田県水産振興センター渋谷和治部長の
『秋田県におけるワカサギの漁獲状況と八郎湖における増殖』 fig.04 秋田県水産振興センター渋谷和治部長の
『秋田県におけるワカサギの漁獲状況と八郎湖における増殖』
fig.04 秋田県水産振興センター渋谷和治部長の『秋田県におけるワカサギの漁獲状況と八郎湖における増殖』

群馬県水産試験場の品川卓志主任は、『群馬県内の湖沼で漁獲されたワカサギの年齢』を報告された。
赤城大沼と榛名湖で釣獲したワカサギの耳石から日周輪を計数し、ワカサギの年齢査定をしたところ、 赤城大沼では当歳魚が確認できずすべて越年魚、榛名湖では体長5.8〜6.0cmの間が年齢の境界と推定された、と説明があった。
fig.05 群馬県水産試験場品川卓志主任の
『群馬県内の湖沼で漁獲されたワカサギの年齢』 fig.05 群馬県水産試験場品川卓志主任の
『群馬県内の湖沼で漁獲されたワカサギの年齢』
fig.05 群馬県水産試験場品川卓志主任の『群馬県内の湖沼で漁獲されたワカサギの年齢』

神奈川県水産技術センター内水面試験場の櫻井 繁主任研究員は、『神奈川県のワカサギ漁業及び遊漁の現状と課題について』を報告された。
特に、丹沢湖において仔魚放流場所を、東方の玄倉川地区(平成19年まで)から、北方の焼津地区へ移動(平成20年より)したところ、 ワカサギ生残率が向上し、その原因を支流域人口・有機物・プランクトンの多寡と推定した事例は、餌料プランクトンの重要性が喚起される 興味深い発表であった。
fig.06 神奈川県水産技術センター内水面試験場櫻井 繁主任研究員の『神奈川県のワカサギ漁業
及び遊漁の現状と課題について』 fig.06 神奈川県水産技術センター内水面試験場櫻井 繁主任研究員の『神奈川県のワカサギ漁業
及び遊漁の現状と課題について』
fig.06 神奈川県水産技術センター内水面試験場櫻井 繁主任研究員の『神奈川県のワカサギ漁業及び遊漁の現状と課題について』

芦之湖漁業協同組合の橘川宗彦事務局長・大場基夫組合長は、『芦ノ湖におけるワカサギ増殖方法の確立化とその効果』を報告された。
芦ノ湖におけるワカサギ増殖事業の技術開発・改良の歴史を述べられ、現在の芦ノ湖方式を構成する 小型定置網による成熟親魚の採捕・水槽内自然産卵法による採卵・孵化装置等を説明された。
なかでも、ワカサギ漁獲量の変遷は、右肩上がりで驚かされた。
fig.07 芦之湖漁業協同組合橘川宗彦事務局長・大場基夫組合長の『芦ノ湖におけるワカサギ増殖方法
の確立化とその効果』 fig.07 芦之湖漁業協同組合橘川宗彦事務局長・大場基夫組合長の『芦ノ湖におけるワカサギ増殖方法
の確立化とその効果』
fig.07 芦之湖漁業協同組合橘川宗彦事務局長・大場基夫組合長の『芦ノ湖におけるワカサギ増殖方法の確立化とその効果』

長野県水産試験場諏訪支場の上島 剛研究員は、『諏訪湖のワカサギの状況』を報告された。
時節柄注目のワカサギ資源量につき、おなじみの記録紙式デプスファインダーによる2009年12月下旬調査結果は、 平均体長49mm・平均体重0.93gと小型であった。
メスのGSIは2.65、オスのGSIは2.25と低く(TL6.0cmのメスで GSI値10が産卵の目安)、2010年春の溯上は04月下旬頃がピークとなる可能性が高い、との見かたを示された。
この予測が当たれば、諏訪湖からのワカサギ受精卵出荷は、04月下旬頃〜05月上旬頃となり、ふ化に要する日数を加算すると、 荷受け地の湖沼へふ化仔魚が泳ぎ出す時の湖沼水温が高温すぎる問題が発生しよう。
fig.08 長野県水産試験場諏訪支場上島 剛研究員の
『諏訪湖のワカサギの状況』
fig.08 長野県水産試験場諏訪支場上島 剛研究員の『諏訪湖のワカサギの状況』

鳥取県水産試験場の福本一彦研究員は、『鳥取県東郷池におけるワカサギの現状について』を報告された。
採捕した34個体中に、ALC標識をした諏訪湖産移植卵100万粒由来魚がおらず、増殖効果は認められなかった。
一方、造成した人工産卵場で自然産卵場と同程度の産卵が確認され、今後は人工産卵場造成による増殖を推進したい、と説明があった。
しかし、シュロ枠の「河川浸漬による自然ふ化」法では、ふ化仔魚確認ができず(濁度起因の微細SSコーティングによる卵の窒息死の可能性が排除できない)、 他の方法(水槽浸漬+清水かけ流しによる自然ふ化等)でトライ&チェックしてから後に、移植卵による増殖効果の評価をすべきではなかろうか。
fig.09 鳥取県水産試験場福本一彦研究員の
『鳥取県東郷池におけるワカサギの現状について』 fig.09 鳥取県水産試験場福本一彦研究員の
『鳥取県東郷池におけるワカサギの現状について』
fig.09 鳥取県水産試験場福本一彦研究員の『鳥取県東郷池におけるワカサギの現状について』

山梨県水産技術センターの岡崎 巧研究員は、『山梨県のワカサギ漁業の現状と課題』を報告された。
最近10年間の山梨県全体のワカサギ漁獲量は20〜30トンで推移し、山中湖では比較的安定しているが、河口湖・精進湖では 安定的な資源確保が課題と話された。
会議後の情報交換会(夕食)に供されたワカサギフライは、山中湖産は5〜6cmと小ぶり、河口湖産は10cm級と大型で美味であった。
fig.10 山梨県水産技術センター岡崎 巧研究員の
『山梨県のワカサギ漁業の現状と課題』 fig.10 山梨県水産技術センター岡崎 巧研究員の
『山梨県のワカサギ漁業の現状と課題』
fig.10 山梨県水産技術センター岡崎 巧研究員の『山梨県のワカサギ漁業の現状と課題』

山中湖漁業協同組合天野洋尚理事は、『山中湖におけるワカサギ増殖への取り組み』を報告された。
山中湖におけるワカサギ増殖の歴史等を写真で紹介頂いた。
fig.11 山中湖漁業協同組合天野洋尚理事の
『山中湖におけるワカサギ増殖への取り組み』
fig.11 山中湖漁業協同組合天野洋尚理事の『山中湖におけるワカサギ増殖への取り組み』

河口湖漁業協同組合渡辺 要理事は、『河口湖のワカサギ復活に向けた取り組み』を報告された。
不漁の大きな原因は、ふ化仔魚の初期減耗であるため、2009年はふ化仔魚にシオミズツボワムシ・配合餌料の給餌を行い、 30〜60日間飼育後の2〜3cm級稚魚を50万尾試験放流した。
今後は放流時期分散(初期は自家採卵・後期は他県産)による初期減耗のリスク軽減等を課題としたい、と報告された。
fig.12 河口湖漁業協同組合渡辺 要理事の
『河口湖のワカサギ復活に向けた取り組み』 fig.12 河口湖漁業協同組合渡辺 要理事の
『河口湖のワカサギ復活に向けた取り組み』
fig.12 河口湖漁業協同組合渡辺 要理事の『河口湖のワカサギ復活に向けた取り組み』

続いて「ワカサギに学ぶ会規約」が討議され、賛成多数で議決された。
「今後の会の活動について」では、会の位置づけが検討され、次回開催県がまとめる方向となった。
開催方法と運営については、幹事県の持ち回り開催とし、次回開催県は群馬県・次々回開催県は北海道と発表された。
第2日目は、宿舎の富士桜荘より、2班に分かれ、河口湖漁協→山中湖漁協→富士湧水の里水族館を視察した。
本稿では、冗長となるため各漁協のふ化設備視察内容は省略し、目の保養に山中湖から見る富士山を掲げておこう。
fig.13 山中湖から見る富士山
fig.13 山中湖から見る富士山

ワカサギに学ぶ会は、ワカサギ増殖に携わる関係者の同窓会のようなもので、たまに一堂に会して日頃の成果を報告し、 夜更けまで議論に及び、旧交を温め、親交を結ぶ良い機会で大変有意義な2日間であった。
群馬県の久下先生よりリクエスト頂いた、小規模漁協向けワカサギ受精卵ふ化設備の導入事例につき、 某漁協関係者に、持参資料を差上げ、ご説明できたことも嬉しい。
開催地でまとめ役にあたられ、何かとお世話になった、山梨県水産技術センターの大浜秀規主任研究員に感謝したい。
次回、ワカサギに学ぶ会開催県は、群馬県である。
第14回ワカサギに学ぶ会:2010年02月04日(木)〜05日(金) 山梨県にて
発表:2010年02月12日(金) 修正 Rev.01:2010年03月01日(月)
前・牛久沼漁業協同組合顧問よしさん
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