第17回ワカサギに学ぶ会は、2013年01月29日(火)、長野県の長野市生涯学習センター(長野市)とホテルメトロポリタン長野(長野市)で開催された。
長野県での開催は、第7回ワカサギに学ぶ会(下諏訪町・2000年度)以来12年ぶりであった。
ワカサギに関する行政や制度に携わる県関係課をはじめ、ワカサギの研究や増殖に携わる国内の研究機関・水産試験場・大学・
漁連・漁業協同組合・水産機材会社及び、ワカサギの利用に携わる自治体水産漁港課・釣り専門テレビ・日釣振支部及び、
オブザーバー参加のNPO法人日本へらぶなクラブ等、関係者総勢約84名が参加した。
fig.00 会議(話題提供・協議)の開催された長野市生涯学習センター(長野市)
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開催地長野県の長野県水産試験場田原偉成場長の開会挨拶に続き、山本聡環境部長の進行により、
話題提供では、北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場隼野寛史研究主幹、西網走漁協川尻敏文技師の
『網走湖におけるシラウオ卵の分布特性』を隼野寛史研究主幹が報告された。
水深別にシラウオ卵及び底質を採取し、底質の粒度組成と卵分布との関連性を検討したところ、
卵分布の中心は中粒砂かそれよりも大きな粒径成分が優占する底質であることが明らかとなったと報告された。
fig.01 道総研さけます内水試隼野寛史研究主幹・西網走漁協川尻敏文技師の『網走湖におけるシラウオ卵の分布特性』
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茨城県水産試験場内水面支場・筑波大学大学院生命環境科学研究科丹羽晋太郎氏は、7名共同研究の
『霞ケ浦北浦におけるワカサギの遺伝的集団構造に関する研究』を報告された。
霞ケ浦と北浦を中心に県内各地で採集したワカサギの遺伝的集団構造を調査したところ、(牛久沼でも)
HN3型が卓越し、魚体サイズの差異が生息環境に依存していることが示唆されたと報告された。
fig.02 丹羽晋太郎氏ほか6名共同研究の『霞ケ浦北浦におけるワカサギの遺伝的集団構造に関する研究』
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北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査、隼野寛史研究主幹の
『阿寒湖におけるワカサギ収容卵数と漁獲尾数の関係』を真野修一研究主査が報告された。
収容卵数と漁獲量及び漁獲尾数との関係、漁獲量の年変動の傾向、今後の卵の収容数について考察したところ、
1997年以降は1年おきに新子の割合が増減し、大型の多い年には多くの卵を収容しても新子は大型に
捕食されると考えられた。
これらから、放卵量を隔年としても良い可能性があると、報告された。
fig.03 北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査、隼野寛史研究主幹の
『阿寒湖におけるワカサギ収容卵数と漁獲尾数の関係』
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島根県水産技術センター内水面浅海部内水面グループ松本洋典専門研究員は
『宍道湖におけるワカサギ漁業の現状とこれから』を報告された。
宍道湖のワカサギ漁業は、1993年まで100〜500tの漁獲で推移してきたが、1994年の猛暑渇水
による激減の後は数tの漁獲となり、近年は数kgの漁獲に低迷している。
放流量の増大については、水技センター・農家(ため池)・水族館施設ゴビウス・漁業者が連携し、ワカサギバンク
事業を展開し仔魚放流している。
しかし、宍道湖は07月15日頃から09月上旬まで、表層から湖底までの水温が30℃に達するため、
夏季の高水温対策も課題であると、報告された。
fig.04 島根県水産技術センター内水面浅海部内水面グループ松本洋典専門研究員の
『宍道湖におけるワカサギ漁業の現状とこれから』
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水産総合研究センター主任研究員・東京海洋大学箱山 洋准教授(Ph.D.)は『諏訪湖のワカサギ個体群について』を報告された。
1917年〜2003年までの87年間のワカサギの漁獲データを分析したところ、前年との変化量△log(CPUE)の
偏自己相関で、前年資源量が増加(減少)の場合、次年度減少(増加)する傾向があることがわかった。
一年おきの周期的な増減パターンのメカニズムの要素についても説明された。
fig.05 水産総合研究センター主任研究員・東京海洋大学箱山 洋准教授(Ph.D.)の『諏訪湖のワカサギ個体群について』
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午後の部で、よしさんは、『ふ化設備用水処理計画と実施例』を報告した。
『ふ化設備用水処理計画と実施例』発表要旨(.pdf,ブラウザの戻る矢印で戻ってください)
原水に井水(地下水)を使用する場合の代表的デメリットである溶存酸素量(DO)不足を、孟宗竹等の身近な素材を用いた、
ばっ気装置で補い、DOを1.1mg/L(11%)から6.4mg/L(62%・at 16.0℃)へ改善し実用した事例を紹介した。
質疑では、処理水槽容量を聞かれ500Lと回答したほか、続く意見交換会席上では、溶存体窒素含有地下水の脱窒にも
簡便で有効であろうとの意見を頂戴した。
fig.06a 前牛久沼漁業協同組合顧問吉田義明(よしさん)の『ふ化設備用水処理計画と実施例』
fig.06b 発表中の、よしさん(撮影:株式会社マツイ大阪営業部芝原英行おさかなマイスター)
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茨城県水産試験場内水面支場内水面資源部根本 孝部長は『霞ケ浦・北浦におけるワカサギの放射性セシウム濃度の動向』を報告された。
2011年03月11日の東日本大震災による翌12日の東京電力福島第1原発1号機水素爆発以降、霞ケ浦北浦は放射性セシウム
の飛散降下に見舞われた。
利根川の常陸川水門より上流、霞ケ浦北浦を含む茨城県面積の35%が、国の出荷制限指示における1水域とされている。
ワカサギの放射性セシウム濃度の最大値は、霞ケ浦の平成23年級群で2011年08月93Bq/Kgで、以降減少し2012年05月26Bq/Kgとなった。
平成24年級群は2012年06月14日42Bq/Kgで、以降減少し2012年12月29Bq/Kgであった。
北浦の平成23年級群の最大値は2011年09月88Bq/Kgで、以降減少し2012年04月31Bq/Kgとなった。
平成24年級群は2012年07月38Bq/Kgで、以降減少し2012年12月19日30Bq/Kgであった。
放射性セシウム濃度は今後減衰するのか、または20Bq/Kg台で横這いを示すか、平成25年級群の測定が待たれる。
ワカサギがプランクトン食性魚であることにかんがみ、プランクトンレベルでのセシウム制御対策は課題であるが、
厚生労働省による食品中の放射性物質の規格基準(魚介類100Bq/Kg)を下回っていても売れない実状があり、
そうした風評被害の対策は大きな課題であると報告された。
fig.07 茨城県水産試験場内水面支場根本 孝部長の『霞ケ浦・北浦におけるワカサギの放射性セシウム濃度の動向』
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群馬県水産試験場小野関由美技師は『オオクチバス消化管内容物からのワカサギDNAの検出』を報告された。
ワカサギが生息する湖沼で釣獲したオオクチバス(体長12.8〜27.0cm)56個体を解剖し、消化管内容物から
プロテナーゼKで抽出したDNAを用いて、ワカサギDNA(特異的プライマー)の検出をしたところ、3個体の
オオクチバスからワカサギDNAが検出された(約5%)。
しかし、当該魚の消化管内容物目視観察では、魚類の痕跡はなかったこと等から、この方法で目視観察では
判断不可能な捕食の実態が把握できることが示唆されたと報告された。
別の視点から、釣獲湖沼が榛名湖であれば、「榛名湖のオオクチバスの95%はワカサギを捕食していない」、
「榛名湖のワカサギ個体数激減の主因はオオクチバスによる食害ではない」との見方も成立しよう。
fig.08a 群馬県水産試験場小野関由美技師の『オオクチバス消化管内容物からのワカサギDNAの検出』
fig.08b 質問に回答される群馬県水産試験場田中英樹係長
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青森県産業技術センター内水面研究所前田穣主任研究員は『十和田湖におけるワカサギとヒメマスの食関係』を報告された。
ヒメマスとワカサギは、餌料プランクトン(ハリナガミジンコ・ケンミジンコ・ゾウミジンコ)を奪いあう競争関係にある
ことが指摘されていたが(※01〜03等)、近年ではヒメマス種苗の大型化や放流数を従前よりも少なくするという対策
を実施し、2005年以降のヒメマス漁獲量は10t前後で安定している。
また、ワカサギはヒメマスの重要な餌料生物であることも確認されたと報告された。
※01 高村典子・三上 一・水谷 寿・長崎勝康(1999):「ワカサギの導入に伴う十和田湖の生態系の変化について」国立環境研究所研究報告,146,1-15.
※02 高村典子・三上 一・伯耆晶子・中川恵(1999):
「ワカサギからヒメマスへ、1980年代と逆の優占魚種の変化がプランクトン群集と水質に及ぼした影響についてー1995-1997年の調査結果から」
国立環境研究所研究報告,146,16-26.
※03 佐藤由紀・中島久男・高村典子(2001):
「十和田湖におけるヒメマスとワカサギの動態に関する数理モデルによる解析」国立環境研究所研究報告,167,52-63.
fig.09 青森県産業技術センター内水面研究所前田穣主任研究員の『十和田湖におけるワカサギとヒメマスの食関係』
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信州大学山岳科学総合研究所花里孝幸教授(Dr.)は『諏訪湖におけるワカサギとミジンコの関係』を報告された。
近年、諏訪湖の水質が顕著に改善されるに伴ない、アオコ現象の大発生が抑制され、同時にワカサギ漁獲量も減少した。
ワカサギが好んで捕食していたノロ(最大体長約10mm)の現存量は増加し、2007年と2012年の春に
大型のカブトミジンコ(体長約2mm)も出現(100年前にワカサギが諏訪湖に放流されて以来)する等、
ワカサギの減少は、餌料プランクトン群集に影響を与えた。
逆説的には、湖沼生産量を高め漁獲量を増加させるには、湖沼をある程度富栄養化傾向に保つことが必要と報告された。
そのことは、「水、清ければ魚棲まず」と、現業に携わる漁業者間の常識であったが、プランクトン群集の消長研究により、
またひとつ学問的に裏付けられた格好である。
fig.10 信州大学山岳科学総合研究所花里孝幸教授(Dr.)の『諏訪湖におけるワカサギとミジンコの関係』
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山梨県水産技術センターの岡崎 巧主任研究員は『最近の河口湖におけるワカサギの不漁について』を報告された。
2010年秋以降、刺網では相当数のワカサギが採捕されるものの、釣りでは釣獲されない状況が続いている(いるのに釣れない)。
1993年から1995年に実施された調査では、ミジンコ(Daphnia galeata)の発生時期は5〜6月ころがピークで、
冬場はほとんど見られなかった。
2011年12月の調査では、ミジンコ(Daphnia spp.)の密度は13個体/Lで、2012年04月の3.4個体/L
に至るまで密度が0にならず、同年05月に密度が26.4個体/Lへと急増しピークとなる一方、餌料で競合する
ワムシ類の密度は減少していた。
即ち、ワカサギふ化仔魚放流時期に、餌料プランクトンたるワムシ類が少なく、ワカサギ初期減耗の結果、
ワカサギの数がミジンコの数より少なくなり、ワカサギは大型化するが、通年ミジンコが豊富に存在するため、
釣り餌に喰いつかぬ負の状況(ミジンコ・スパイラル)にあると見られると報告された。
fig.11 山梨県水産技術センター岡崎 巧主任研究員の『最近の河口湖におけるワカサギの不漁について』
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長野県水産試験場環境部倉重基希技師は『野尻湖におけるプランクトンの季節変化』を報告された。
2007年から2〜3ケ月に1回程度、野尻湖の2定点においてプランクトンを採取、調査したところ、
野尻湖のプランクトン組成は季節的に変化し、春先(3〜4月)にワムシ類(2種)が増加、その後ミジンコ類
(ゾウミジンコ・ケンミジンコ)が増加する傾向があった。
ワムシ類はワカサギの初期餌料として知られ、野尻湖においてもワムシ類が豊富に存在し、
その後のミジンコ類も豊富であった2008年及び2011年は、冬期のワカサギ釣りが好調であったと報告された。
fig.12 長野県水産試験場環境部倉重基希技師の『野尻湖におけるプランクトンの季節変化』
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弘前大学大学院教育学研究科菊池智子氏は『ワカサギ杯頭条虫の分布と生活史』を報告された。
扁形動物門条虫綱変頭目杯頭条虫科のワカサギ杯頭条虫(Proteocephalus tetrastomus)は、ワカサギ類の腸管に
寄生する。
本種の分布を規定する要因を探るため、全国13湖沼のワカサギを用い、分布を調査したところ、
条虫類・吸虫類・鉤頭虫類・線虫類・カイアシ類の5分類群の寄生虫が見つかり、ワカサギ杯頭条虫の分布は
北海道(網走湖・阿寒湖・塘路湖)と青森県(十二湖の越口池,王池,二ツ目の池,八景の池・小川原湖)に限られていた。
また、Shimazu(1990)は諏訪湖(長野県)と芦ノ湖(神奈川県)から分布を記録しており、
本種の分布は北方または山地の湖沼に限定されるように見え、本種の生活環に一定以下の低水温が必要であること
を暗示させる。
また、永い低水温期間が本種の成長を促進している可能性があると報告された。
fig.13 弘前大学大学院教育学研究科菊池智子氏の『ワカサギ杯頭条虫の分布と生活史』
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信州大学大学院理工学系研究科戸田龍太郎氏、信州大学山岳科学総合研究所花里孝幸教授(Dr.)の
『諏訪湖において確認されたワカサギに寄生するケンミジンコ、ニセエラジラミ類』を戸田龍太郎氏が報告された。
ニセエラジラミ科(Ergasilidae)はケンミジンコ目(Cyclopoida)に分類される魚類寄生性ケンミジンコで、世界の
淡水及び汽水域に出現し、日本では6属19種が分布するものの、特異な生活史であること及び日本における
分類体系は2007年に確立されたばかりであること等から、一般の認識は低い。
2012年に諏訪湖におけるニセエラジラミ類を調査したところ、湖心及び沿岸帯4地点の全ての湖水中から
Copepodid(発表要旨原文はCopepotid) 期のニセエラジラミ類を確認し(密度は湖心より沿岸帯の方が高い)、ワカサギからも
Ergasilus hypomesi Yamaguti,1936(ワカサギニセエラジラミ)、E.auritus Markevich,1940(ダルマニセエラジラミ)、
Neoergasilus japonicas Harada,1935(ヤマトニセエラジラミ)の
3種のニセエラジラミ類を確認し、諏訪湖における分布状況が明らかになったと報告された。
質疑では、ワカサギ仔魚への影響は不明とされた。
fig.14 信州大学大学院理工学系研究科戸田龍太郎氏、信州大学山岳科学総合研究所花里孝幸教授(Dr.)の
『諏訪湖において確認されたワカサギに寄生するケンミジンコ、ニセエラジラミ類』
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千葉県水産総合研究センター内水面水産研究所藍 憲一郎主任上席研究員は『高滝湖におけるワカサギの自然産卵と親魚採捕の試み』を報告された。
1回あたり250万粒の自然産卵に必要なワカサギ親魚約2500尾の採捕を目標に、2008年(河川・湖内)、2012年(湖内)に
張網による親魚採捕を試みた。
古敷谷川では1回の採捕尾数が1366〜4698尾と多く、採捕場所として有望であった(抱卵魚の割合14〜17%・2008年)が、
2009年以降は遡上魚がほとんどなくなった。
2012年の湖内採捕では、1回の採捕尾数が最高509尾に留まったものの抱卵魚の割合は20〜57%と高かった。
今後は張網だけでなく、釣り等の採捕方法と併せ尾数確保をしたいと報告された。
fig.15 千葉県水産総合研究センター内水面水産研究所藍 憲一郎主任上席研究員の
『高滝湖におけるワカサギの自然産卵と親魚採捕の試み』
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続く協議では、今後のワカサギに学ぶ会の取扱について、規約面の整備が提案され、グループ研究のテーマ案(国費助勢を想定)も募集された。
ワカサギ増殖及び利用についての悩みは、個々の水域において事情が異なり、大小の問題(解決すべきテーマ)は山積している実態を踏まえ、
中心となる研究窓口・調整機関を定め、テーマ案募集の周知・決定テーマ及び協同研究参画者募集の周知・テーマ別予算配分・成果報告(書刊行・会開催)等を担う
ことが叩き台として考えられよう。その際、テーマ別研究責任者には然るべき者が就くべきであろうが、テーマ別メンバー選定においては、産学官が連携し、
個々の実績・得意分野・個別フィールドへの熱意等を勘案し広く人材を求めるべきと考える(よしさん提言)。
ワカサギに学ぶ会の開催実施道県は、北海道・青森県・秋田県・福島県・茨城県・群馬県・神奈川県・山梨県・長野県の9道県、ワカサギに学ぶ会
への参加希望県は、栃木県・千葉県・富山県とされるが、利用者特に遊漁者目線からは「なぜ自分の居住する都府県は、ワカサギに学ぶ会に参加しないのか」
「もっと、ワカサギ増殖に力を入れてほしい」という声も洩れ聞こえる。
現状では、ワカサギに関する遊漁者ニーズを、都府県漁政担当課及び水産試験場等へ、アピールすることも一法であろう。
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会場をホテルメトロポリタン長野(長野市)に移し、開催された意見交換会では、ご当地諏訪湖のワカサギ及び信州サーモンが供され、よしさんも堪能した。
意見交換会を通じ、それぞれの立場でワカサギに取組む参加者の熱意が強く感じられ、大変有意義であった。
末筆ながら、話題提供中の、よしさんを撮影くださった株式会社マツイ大阪営業部芝原英行おさかなマイスター、及び開催地でまとめ役にあたられた、
長野県水産試験場築坂正美主任研究員並びに関係各位に感謝したい。
次回、第18回ワカサギに学ぶ会の開催地は、茨城県と発表された。
【関係報告】
(※01)よしさん(2013):「第17回ワカサギに学ぶ会 附録編 長野市の観光」http://wakasagi.jpn.org/
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