第18回ワカサギに学ぶ会は、2014年01月23日(木)、茨城県霞ケ浦環境科学センター・多目的ホール(土浦市沖宿町)とホテルアルファ・ザ・土浦(土浦市港町)で開催された。
茨城県での開催は、第8回ワカサギに学ぶ会(霞ケ浦町・2001年11月22日)以来13年ぶりであった。
ワカサギに関する行政や制度に携わる県関係課をはじめ、ワカサギの研究や増殖に携わる国内の研究機関・水産試験場・大学・ 漁連・漁業協同組合・水産機材会社及び、ワカサギの利用に携わる日釣振支部・キャンプ場・釣りメディア
等、関係者総勢約94名が参加した。
fig.00 会議(講演・話題提供・協議)の開催された 茨城県霞ケ浦環境科学センター(土浦市沖宿町)
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開催地茨城県の茨城県水産試験場内水面支場清水信宏技佐兼内水面支場長の開会挨拶に続き、茨城県水産振興課関山典明主事の進行により、
東北大学大学院農学研究科沿岸生物生産システム学研究室池田実准教授が『ワカサギにおける自然集団の遺伝的分化と創生集団の起源に関する研究』を講演された。
網走湖・小川原湖・霞ケ浦北浦・宍道湖、各湖沼のワカサギ集団が保有するハプロタイプ(mtDNAの型)は著しく異なっており、北海道においても、
比較的に近距離に位置する網走湖(と濤沸湖)・風蓮湖・別寒辺牛川のワカサギ集団はそれぞれ遺伝的に独立していることが研究により判った。
中国には元々ワカサギは生息していなかったが、1938年に諏訪湖(霞ケ浦起源)から遼寧省へ移殖が開始され、広まったとされていた(王2000:東京海洋大学)。
しかし、片山知史博士(東北大学教授)が河北省及び新疆ウイグル自治区産ワカサギを用いて、DNA分析したところ、霞ケ浦北浦と近縁ではなく、やや宍道湖に近かったことから、
中国産ワカサギは、大陸側も含めた宍道湖以外の日本海沿岸自然集団に起源を持つと考えられた。
遺伝的に異なるワカサギ集団が移殖導入された場合、外交状勢により集団が崩壊する危険性もあることから、少なくとも日本列島沿岸の海跡湖
に生息するワカサギ集団については、それぞれを貴重なストックとみなし、移殖に頼らない保全管理が望まれる。
内陸湖沼に移殖形成された創生集団については、起源をDNA分析により明確にし、単一の海跡湖起源であれば、マザーレイクのワカサギが絶滅に瀕した場合の
補充用ストックの価値も付加されるから、遺伝的同質性を維持する努力も必要となろう、と講演された。
fig.01 東北大学大学院農学研究科沿岸生物生産システム学研究室池田実准教授の
『ワカサギにおける自然集団の遺伝的分化と創生集団の起源に関する研究』
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話題提供では、北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場道東内水面グループ隼野寛史研究主幹、同真野修一研究主査、西網走漁協川尻敏文技師の 『網走湖産シラウオの個体群動態と漁獲量の変動要因』を隼野寛史研究主幹が報告された。
稚魚分布指数・漁家毎の漁業情報の収集・網走川流量データ・資源量推定・再生産関係を検討したところ、漁獲量は初個体群サイズを反映しながら変動しており、降雨増水及び青潮により予期せず不漁になることが
明らかになり、毎年調査船で稚魚分布指数を調査すれば、初個体群サイズ推定と漁獲許容量の算出も可能であろうと報告された。
fig.02 道総研さけます内水試隼野寛史研究主幹、同真野修一研究主査、西網走漁協川尻敏文技師の
『網走湖産シラウオの個体群動態と漁獲量の変動要因』
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茨城県水産試験場内水面支場所史隆技師は、『霞ケ浦及び北浦におけるワカサギのふ化時期と動物プランクトンとの関係について』を報告された。
耳石解析によりワカサギのふ化日組成を調べ、動物プランクトンの出現組成と比較したところ、
本水域ではハネウデワムシ及びツボワムシの多い時期とふ化日組成が一致する傾向が見られたと報告された。
fig.03 茨城県水産試験場内水面支場所史隆技師の
『霞ケ浦及び北浦におけるワカサギのふ化時期と動物プランクトンとの関係について』
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群馬県水産試験場小野関由美技師・国立環境研究所野原精一室長は『赤城大沼における放射性セシウムの推移-ワカサギは何をどの様に食べているか?-』を報告された。
東日本大震災に伴う東京電力株式会社福島第1原子力発電所事故により、赤城大沼の魚類も放射性物質で汚染された。
原因究明と対策は、環境省の環境研究総合推進費を用いて、群馬大学・群馬県水産試験場・国立環境研究所・武蔵大学の共同研究で進めてきた。
湖内に生息するワカサギの放射性セシウム濃度は、2014年01月現在99Bq/Kgと減少し、今後も減少すると考えられる。
しかし、餌料プランクトンからも100〜300Bq/Kg程度の放射性セシウムが検出されたことから、生物濃縮によりプランクトンからワカサギに
放射性セシウムが移行していることも推定されると報告された。
国立環境研究所野原精一室長(Dr.)は、ハイスピードカメラを用いてワカサギの摂餌行動を撮影し観察したところ、ワカサギは動物プランクトンを目視し、
選択して摂餌していたと報告され、その動画も上映紹介頂いた。
成魚らしき大型個体は、1cmほど離れた距離から餌料プランクトンをスポッと吸い込んでおり(咀嚼なしで丸飲み)、摂餌行動のスローモーション
動画は興味深かった(※01)。
fig.04 群馬県水産試験場小野関由美技師・国立環境研究所野原精一室長の
『赤城大沼における放射性セシウムの推移-ワカサギは何をどの様に食べているか?-』
(※01)その後、国立環境研究所野原精一室長(Dr.)より「ワカサギは何をどの様に食べているか」(DVD・約7min)を頂戴し、
大型と小型のワカサギが、11種類の餌料(動物プランクトン3種・イサザアミ・ブラインシュリンプ・人工飼料・ミミズ2種・ユスリカ・
メダカ稚魚・白サシ)に摂餌する様子を、通常スピードとハイスピードカメラを用いた動画で、よしさんも詳しく観察させて頂いた。
研究者必見の動画である。
(special thanks National Institute for Environmental Studies Leader Mr s.Nohara, yoshisan.)
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神奈川県水産技術センター内水面試験場戸井田伸一専門研究員は『芦ノ湖におけるワカサギのファーストフード』を報告された。
ワカサギ漁の安定化に向け、仔稚魚の初期生残に影響すると考えられる餌料プランクトンを調査したところ、
春期に多数生息する小型の餌料プランクトンは、ノープリウス幼生・ゾウミジンコの卵と幼生・ミツウデワムシ・フクロワムシ・ツボワムシ類であったと報告された。
fig.05 神奈川県水産技術センター内水面試験場戸井田伸一専門研究員の『芦ノ湖におけるワカサギのファーストフード』
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山梨県水産技術センターの岡崎 巧主任研究員は『河口湖におけるワカサギ不漁と動物プランクトン相の関係について』を報告された。
2010年秋以降、刺網では相当数のワカサギが採捕されるものの、釣りでは釣獲されない状況が続いている(いるのに釣れない)。
1993年から1995年に実施された調査では、ミジンコ(Daphnia galeata)の発生時期は5〜6月ころがピークで、 冬場はほとんど見られなかった。
2010年12月及び2011年12月の調査では、
冬季に出現したことのないミジンコ(Daphnia pulicaria ・河口湖へは琵琶湖のオオクチバスに混じって移入された外来種)を飽食した大型ワカサギが
多数確認された。
ミジンコ(D. pulicaria )は、2013年04月に60個体/Lを超える高密度に達し、餌料で競合するワムシ類の密度は平均5.2個体/Lに減少していた。
即ち、ワカサギふ化仔魚放流時期に、小型餌料プランクトンたるワムシ類が少なく、ワカサギ初期減耗の結果、 ワカサギの数がミジンコの数より少なくなり、ワカサギは大型化するが、
通年ミジンコが豊富に存在するため、 釣り餌に喰いつかぬ負の状況(ミジンコ・スパイラル)が現在も続いていると報告された。
fig.06 山梨県水産技術センター岡崎 巧主任研究員の『河口湖におけるワカサギ不漁と動物プランクトン相の関係について』
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水産総合研究センター増養殖研究所内水面研究部宮本幸太研究員・
長野県水産試験場沢本良宏氏・同築坂正美主任研究員・長野県水産試験場諏訪支場河野成美氏・
信州大学山岳科学総合研究所花里孝幸教授(Dr.)・同花里孝幸研究室君島 祥氏の
『ワカサギ初期減耗要因解明への取り組み』を宮本幸太研究員が報告された。
諏訪湖において、ワカサギ稚魚の推定ふ化日及び仔魚の流下量並びに餌料プランクトン密度を調べたところ、
ワカサギ稚魚は主にツボワムシ類を選択的に摂餌しており、ツボワムシ類の密度は04月下旬〜05月上旬にピークがあった。
諏訪湖における主なワカサギの初期減耗要因は、ツボワムシ類の発生時期とのミスマッチである可能性が示唆されたと報告された。
fig.07 水産総合研究センター増養殖研究所内水面研究部宮本幸太研究員らの『ワカサギ初期減耗要因解明への取り組み』
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弘前大学大学院教育学研究科菊池智子氏は『日本の湖沼におけるワカサギ杯頭条虫の分布』を報告された。
扁形動物門条虫綱変頭目杯頭条虫科のワカサギ杯頭条虫(Proteocephalus tetrastomus)は、ワカサギ類の腸管に 寄生する。
全国33湖沼のワカサギを用い、分布を調査したところ、今回新たに13湖沼にワカサギ杯頭条虫の分布が確認されたが、
分布する湖沼に、地理的な偏り・栄養状態・塩分濃度の違いは見られなかったと報告された。
質疑では、ヒトがワカサギごと食用しても大丈夫とされた。
fig.08 弘前大学大学院教育学研究科菊池智子氏の『日本の湖沼におけるワカサギ杯頭条虫の分布』
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北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場道東内水面グループ真野修一研究主査、同隼野寛史研究主幹、西網走漁協川尻敏文技師の 『網走湖産ワカサギにおける2013年春の採卵数減少の要因について』を真野修一研究主査が報告された。
網走湖は国内有数のワカサギ増殖用種卵供給地であるが、2013年春には出荷卵数が前年の20%に激減した。
その要因を探るため、体重を指標に2012年級群の成長履歴を調査したところ、採卵の主群となる2012年級群の中に成熟した魚が非常に少なく、
採卵数が激減したと推察されたと報告された。
fig.09 北海道立総合研究機構水産研究本部さけます・内水面水産試験場道東内水面グループ真野修一研究主査らの
『網走湖産ワカサギにおける2013年春の採卵数減少の要因について』
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よしさんは、『牛久沼のワカサギ卵ふ化設備』を報告した。
茨城県下に初めて導入された牛久沼のワカサギ卵ふ化設備の仕様・システム等エンジニアリング面を各種図面・写真により紹介し、
給水中の実測溶存酸素量(DO)とワカサギ仔魚放流密度の評価を紹介した。
原型又は変形バージョン或いは一部だけでも、各地の小規模漁協の参考になれば嬉しい。
『牛久沼のワカサギ卵ふ化設備』発表要旨(.pdf,ブラウザの戻る矢印で戻ってください)http://wakasagi.jpn.org/
『牛久沼のワカサギ卵ふ化設備』発表内容(.pdf,ブラウザの戻る矢印で戻ってください)http://wakasagi.jpn.org/
fig.10 発表中の、よしさん(撮影:クロコダイルファクトリー・古田浩徳様)
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芦之湖漁業協同組合結城陽介氏は『水槽内自然産卵法による2日目採卵の効果について』を報告された。
従来の水槽内自然産卵法で採卵後に、再び親魚を水槽に収容・遮光し、20時間後に受精卵を回収(2日目採卵)したところ、
総採卵数の17.8%(実数9900万粒)に達した。
さらに、得た受精卵をふ化筒で管理し発眼率を調べたところ、1日目採卵の平均90.7%に対し、
2日目採卵は平均87.1%と、増殖現場レベルでは問題ないように考えられたと報告された。
fig.11 芦之湖漁業協同組合結城陽介氏の『水槽内自然産卵法による2日目採卵の効果について』
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続いて、「ワカサギに学ぶ会」今後の開催予定とこれまでの経過が報告された。
次回、第19回ワカサギに学ぶ会(平成26年度)の開催地は青森県、
次次回、第20回ワカサギに学ぶ会(平成27年度)の開催地は未定、と発表され閉会した。
茨城県に指名された、北海道・青森県・群馬県・山梨県・神奈川県は閉会後に居残り、
「ワカサギに学ぶ会」規約の見直し協議をされた。
fig.00a 「ワカサギに学ぶ会」会場
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会場をホテルアルファ・ザ・土浦(土浦市港町)に移し、開催された意見交換会を通じ、講演者・話題提供者へのご挨拶、
顔見知りの方々に漁場の近況を尋ね、それぞれの立場でワカサギに取組む参加者の熱意が強く感じられ、大変有意義であった。
反面、「ワカサギに学ぶ会」の会議はプログラムに集中し聴講するため、参加者間のコミュニケーション時間はほとんどなく、
折角会議に参加しながら、意見交換会に参加されない方もおられ残念であった。
また、参加者中に遊漁者が僅少であったのも寂しく、熱心なワカサギ釣りフリークの参加があって良いと思えた。
意見交換会は、聞きたいことを本音でゆっくり訊ねるに絶好の場で、次回「ワカサギに学ぶ会」に参加を計画する
方は、ぜひ全日程に参加し、地元に持ち帰れるお土産ネタを獲得して頂きたい。
末筆ながら、話題提供中の、よしさんを撮影くださったクロコダイルファクトリー・古田浩徳様、及び開催地でまとめ役にあたられた、
茨城県水産試験場内水面支場内水面資源部須能紀之部長並びに関係各位に感謝したい。
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