第21回ワカサギに学ぶ会は、2016年12月06日(火)、神奈川県立かながわ労働プラザ第3会議室(横浜市中区寿町)と京華樓中華街大通り店(横浜市中区山下町)で開催された。
神奈川県での開催は、第13回ワカサギに学ぶ会(箱根町・2007年03月14日〜15日)以来9年ぶりであった。
ワカサギの研究や増殖に携わる国の研究機関・道県水産試験場・漁連・漁業協同組合・水産機材会社・調査会社及び、ワカサギの利用に携わる日釣振支部・遊漁舟組合等、関係者総勢約70名が参加した。
fig.00 会議(話題提供・総合討論・その他)の開催された 神奈川県立かながわ労働プラザ(横浜市中区寿町)
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開催地神奈川県の神奈川県水産技術センター内水面試験場利波之徳場長の開会挨拶に続き、7題の話題提供があった。
fig.01 開催地神奈川県の神奈川県水産技術センター内水面試験場利波之徳場長の開会挨拶
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国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所内水面研究センター宮本幸太研究員は、
『ニッポンのワカサギ釣り事情』を報告された。
「2013年漁業センサス第7巻」(農林水産省大臣官房統計部)から、漁業協同組合の遊漁承認証の延べ発行枚数・遊漁承認証を発行した漁業協同組合数の
データを集計解析したところ、ワカサギの遊漁承認証の発行枚数内訳で1日券は年券の9倍以上と最多の特徴があった。
そこから、ワカサギ釣りは家族や友人と楽しむ1日限りの「レジャー」としての側面が強いことがうかがわれ、女性・子供が参加しやすい環境整備や観光との組み合わせを
実施しPRすることで、さらなる需要が見込めると予想される、と話された。
ワカサギ釣り振興には、漁業と遊漁の法的整備整合も必要ではないか(日本釣振興会群馬支部柏瀬巌支部長)と提案があった。
fig.02 国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所内水面研究センター宮本幸太研究員の 『ニッポンのワカサギ釣り事情』
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芦之湖漁業協同組合事務局結城陽介氏は『芦ノ湖における近年のワカサギについて』を報告された。
2001年から、水槽内自然産卵法(芦ノ湖方式)を本格的に運用してからは、漁獲量・採卵量とも飛躍的に
増加し、高位安定で推移してきた。
しかし、2016年は魚体が2.2g/尾/(♂♀平均)と小さく、採卵量は約7億粒に留まった、と報告された。
年級群は分かりますか(群馬県水産試験場久下敏宏主席研究員)の質問に、
耳石を採ったデータがありません、と答えられた。
fig.03 芦之湖漁業協同組合事務局結城陽介氏の『芦ノ湖における近年のワカサギについて』
組合員自作のフクベ網(現用品)を持ち込んでの熱演に、参加者も席を立って見学する
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北海道立総合研究機構網走水産試験場永田光博研究主幹、同さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査、
同網走水産試験場浅見大樹研究主幹は『網走湖産ワカサギの資源変動と生活史2型との関係』を報告された。
網走湖の湖中残留型と遡河回遊型の割合と資源量との関係を、モデルで検証したところ、遡河回遊型の減少傾向が示唆された。
その要因に天然産卵量の低下が推察され、再生産親魚の確保が重要と考えられ、漁獲圧の低下を計っている(CPUEから漁獲予想し漁獲量を規制する)、
と報告された。
fig.04 北海道立総合研究機構網走水産試験場永田光博研究主幹、同さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査、
同網走水産試験場浅見大樹研究主幹の『網走湖産ワカサギの資源変動と生活史2型との関係』
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北海道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査は、『阿寒湖のワカサギの近況について』を報告された。
阿寒湖におけるワカサギの漁獲量は、北海道では網走湖に次いで第2位である。
しかし、漁獲量及び増殖用種卵の採卵数は大きく変動している。
データを解析すると、小型魚の分布指数が増加すると初期資源尾数も増加する傾向があり、
小型魚の資源水準は秋漁操業前に推定可能と考えられた、と報告された。
下水道完備されてから、ワカサギの漁場は変化しましたか(山中湖漁業協同組合天野洋尚理事)の質問には、変化なし、と答えられた。
fig.05 北海道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場真野修一研究主査の『阿寒湖のワカサギの近況について』
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千葉県水産総合研究センター内水面水産研究所藍憲一郎主席研究員は、『千葉県高滝湖のワカサギ資源について』を報告された。
高滝湖では年ごとの資源変動が、最低(2006年)と最高(2011年)で3倍と大きく、資源が低水準の年の特徴について考察した。
その結果、1才魚が多く確認された年度が低水準の年の特徴と考えられたが、原因は不明で、今後、1才魚の出現原因や1才魚が当才魚
の生残に与える(餌料プランクトン競合等の)影響を解明する必要がある、と報告された。
fig.06 千葉県水産総合研究センター内水面水産研究所藍憲一郎主席研究員の『千葉県高滝湖のワカサギ資源について』
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中禅寺湖漁業協同組合布施雄大氏は、『中禅寺湖でのワカサギ釣り・遊漁者傾向』を報告された。
中禅寺湖はヒメマス・ブラウントラウト等のマス釣り遊漁期間終了後、09月20日から10月31日までをワカサギ釣り遊漁期間
とし、釣獲調査・ホームページ及びブログによる遊漁者への情報発信を実施している。
最近のワカサギ釣獲は、2014年3.9g/尾・1.9t、2015年4.9g/尾・3.0t、2016年3.9g/尾・3.9t、
と推移している、と報告された。
ワカサギが良い年に、ヒメマスはどうであったか(芦之湖漁業協同組合福井達也代表理事組合長)の質問に、
2016年はヒメマス(♂♀8000尾)もワカサギも豊漁であった、と答えられた。
fig.07 中禅寺湖漁業協同組合布施雄大氏の『中禅寺湖でのワカサギ釣り・遊漁者傾向』
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長野県水産試験場星河廣樹技師は、『長野県内におけるワカサギの放流時期と初期餌料のマッチング調査の課題』を報告された。
諏訪湖における4年間(2013〜2016)の推定ふ化日のピークは、04月下旬〜05月中旬と差があったが、初期餌料
となるツボワムシの発生期間内であった。
ツボワムシの発生時期と量は年による変動が大きい。
野尻湖における4年間(2013〜2016)の放流日のピークは、04月中旬〜04月下旬と差があり、仔魚放流数は
約1〜2億尾であった。
初期餌料と推定されるワムシ類のピーク時の密度は、約70〜400個体/Lで、ピーク時期は03月下旬〜05月中旬と
年ごとに異なっていた、と報告された。
2016年夏季の諏訪湖におけるワカサギ大量斃死に関連し、十和田湖(低水温湖)産種卵からの(ふ化仔稚)未成魚は高水温に弱い
のではないか(芦之湖漁業協同組合山木一人理事)との質問には、不明と回答された。
fig.08 長野県水産試験場星河廣樹技師の『長野県内におけるワカサギの放流時期と初期餌料のマッチング調査の課題』
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続いて、「ワカサギに学ぶ会」の運営について、会員県・役員県・開催地の順番を明確化し次回会議で決定する運びとなった。
次回、第22回ワカサギに学ぶ会(平成29年度)の開催地は山梨県、次次回、第23回ワカサギに学ぶ会(平成30年度)の開催地は群馬県(または千葉県で初開催)、と発表され閉会した。
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会場を京華樓中華街大通り店(横浜市中区山下町)に移し、開催された意見交換会を通じ、講演者・話題提供者へのご挨拶、顔見知りの方々に漁場の近況を尋ね、
それぞれの立場でワカサギに取組む参加者の熱意が強く感じられ、大変有意義であった。
反面、「ワカサギに学ぶ会」の会議はプログラムに集中し聴講するため、参加者間のコミュニケーション時間はほとんどなく、
折角会議に参加しながら、意見交換会に参加されない方もおられ残念であった。
また、参加者中に遊漁者が僅少であったのも寂しく、熱心なワカサギ釣りフリークの参加がもっと多くあって良いと思えた。
「ワカサギに学ぶ会」の啓蒙面からは、地元新聞社・地元TV局・地元ケーブルネットや、遊漁専門雑誌・水産専門紙誌等、取材するメディアの参加が望まれた。
『海洋と生物』(上述・筆者は後日購入済)で宮本幸太研究員の危惧した「近年、人員や研究費の削減によって、国、都道府県を含めた研究機関がワカサギ研究に
とりかかれなくなっていることである。そのため、ワカサギ研究が将来の内水面漁業を支える研究として位置づけられ、国、都道府県、漁業協同組合が一丸となって課題
へ取り組む体制が作られることを切望する。(552pp)」との、深刻な問題を知るにつけ、
組織に所属せず(従って定年もなく)、マイペースで研究を進められる個人研究家のメリットも期せずして再確認できた。
しかし、文献・機材購入費は元より、会議の旅費も全て個人負担という厳しい経済的デメリットは、個人研究家の育たぬ最大のハードルであろう。
なかには筆者の如く、難病の配偶者の在宅介護という時間に制約される第2ハードルを抱える個人研究家もあろうが、
それでも可能な部分の研究を進めたく思った。
意見交換会は、聞きたいことを本音でゆっくり訊ねるに絶好の場で、次回「ワカサギに学ぶ会」に参加を計画する方は、ぜひ全日程に参加し、地元に持ち帰れるお土産ネタを獲得して頂きたい。
末筆ながら、開催地でまとめ役にあたられた、 神奈川県水産技術センター内水面試験場利波之徳場長並びに関係各位に感謝したい。
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